ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります

2月6日(土)晴れ

 横浜シネマ・ジャックで『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』(リチャード・ロンクレーン監督作品)を見る。この映画館では1月30日に上映が始まり、本日から2週目に入って1日に1回だけの上映となったものの、ほぼ満席となった。口コミで評判が広がっているらしい。

 あまり売れない画家のアレックス(モーガン・フリーマン)と元教師のルース(ダイアン・キートン)は結婚の数年後に見つけたブルックリンのアパートの最上階の部屋にもう40年以上住んでいる。黒人のアレックスと、白人のルースは画家とモデルとして知り合ったのだが、周囲の反対を乗り越えて結婚し、いろいろな困難を乗り越え、愛犬のドロシーとともに、それなりに幸福な生活を送ってきた。しかし、エレベーターのないアパートでの生活は老境に入った2人、とくにアレックスにとって、またドロシーにとって大きな障害となりはじめている。ルースの姪である不動産エージェントのリリー(シンシア・ニクソン)の助けを借りて、アパートを売って、どこかもっと楽に暮らせる住まいを探そうと、2人は一方でオープン・ハウスでアパートの買い手を探し、その一方で、自分たちが新たに住むことになる住まいを探す。とはいうものの、売却をめぐって2人の間には温度差があり、ブルックリンを離れたくない2人にとって、自分たちが住んでいるアパート以上の住まいを見つけることは難しいこともわかってくる。

 住み慣れた住居への愛着と、にもかかわらず年をとって体の自由が利かなくなったことから新しい住居を探そうとする気持ちの葛藤、その一方で愛犬のドロシーの体調が悪化し、入院・手術という小さいなりに重大な事件も起きる。アパート売却の取り組みと並行して、ブルックリンのつり橋でトラックが事故を起こし、交通がマヒしている中で、運転手が行方不明になったという事件が起きて、運転手がテロリストではないかという疑惑が広がって大騒ぎになる。騒ぎはアパートの売却とは無関係のはずだが、どうも無関係ではいられないところが2人、とくにアレックスのほうにはある。

 アパートを売ると100万ドルほどの金ができるという。しかし、あたらしいアパートを買うとなると、もっと金がかかりそうである。ドロシーの病状は深刻で、CTスキャンだの、手術だの、1000ドルとか、1万ドルとかいう費用が掛かる。金額の桁が大きいところにアメリカと日本の違いを感じるとはいうものの、年をとってきたので住み替えようとか、その住み替えをめぐって夫婦の意見がかみ合わないとかいうのは、米日共通の事柄ではないかと思われる。そういうところに共感する観客が多いことは容易に推察できることである。

 ブルックリンを舞台にした映画は数多くつくられてきた。もともとニューヨークとは別の市だったのが、ニューヨークに合併されたこと、マイノリティーが多く住む町であったことなどは周知の事柄である。かつて、この町を本拠地とした大リーグ球団ドジャーズが、最初の黒人大リーガーであるジャッキー・ロビンソンを入団させ(最初の黒人大リーガーは、サッチェル・ページであるなどというようなマニアックな話はさておく)、同じニューヨークを本拠地とする(より高い社会階層の支持を集めている)ヤンキーズとワールド・シリーズで対決を繰り返していたことは大リーグの歴史に詳しい人ならばご存じのはずである。ブルックリンにはマイノリティーがその存在を主張できるような風土があり、それがこの映画の主人公夫婦を引き留めている理由であろう。黒人の夫と白人の妻というカップルが周囲とのそれほどの違和感なく暮らせてきたのは、ブルックリンならではのことなのである。

 結婚の経緯とか、その後の生活の中に、それだけで1本の映画ができそうな話題を含みながら、それらを過去のエピソードとして圧縮し、老境に達して、思い出の詰まったアパートを売りに出そうとする場面に焦点を当てることで、物語としての緊張感を生み出している。決して平凡ではない歩みを重ねてきた夫婦の、平凡な試みを描くことで、観客が自分の経験に照らし合わせながら、問題を考えることを可能にしている。映画が終わった後で、まだ若い男性がこの映画には原作があると、連れの女性に得々と語っていたが、そんなことよりも、住まいをめぐる自分の経験と照らし合わせて、この映画を語るべきである。 
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