ダンテ・アリギエリ『神曲 煉獄篇』(22-2)

2月2日(火)晴れ

 ウェルギリウスに導かれて煉獄を歩むダンテは、その第5環道でローマの詩人スタティウスの霊と合流する。スタティウスはその罪を浄めて、天国へ向かうところであるという。彼らは8つある煉獄の環道の内の第6環道に達し、そこでウェルギリウスはスタティウスがどのような罪を浄めなければならなかったのかと問う。

あなたのおかげで私は詩人となった。あなたのおかげで私はキリスト者となった。
けれども私が素描したものをより深く理解していただくために、
手を伸ばして色を施しましょう。
(326-327ページ)と、スタティウスは、彼がウェルギリウスに導かれて詩人となり、彼の予言のためにキリスト教への信仰をもったことに感謝しながら、自分の在世中の生き方について詳しく語ろうとする。

かつて世界は永遠の王国の使徒たちにより
種が蒔かれ、すみずみまで
真実の信仰をはらんでいました。
(327ページ) 人類の歴史の初めに黄金時代があったという考えは、ギリシア・ローマ的なもので、それはただ人々が自然の富の中で豊かに暮らしていたというだけでなく、地上に正義が行われていた時代であると考えられた。ウェルギリウスがその『牧歌』などの作品で歌ったのはこのような時代の記憶であるという。中世の人々は、このようなギリシア・ローマの黄金時代の考えを、旧約聖書の人類のエデンの園における幸福な生活と結びつけて考えていた。つまりキリスト教は、ギリシア・ローマ時代の人々の考えの自然な延長線上にあると考えたのである。
 そしてスタティウスは黄金時代≂神の教えが人々の心の中に満ちていた時代への郷愁から、キリスト教に近づいたと述べる。が、ドミティアヌス帝の時代にキリスト教が迫害された(これは歴史的な事実とは言えないそうである)ことで、信仰に近づき、洗礼を受けて信者にはなったものの、その信仰を隠し続けていた。このように隠れながらのキリスト者であったことから、その臆病さの罰として、彼は400年の長きにわたって、煉獄の第4環道で怠惰の罪を償っていたという。

 このように自分について語った後、スタティウスはローマの劇作家、詩人たちが今、どこにいるのかをウェルギリウスにたずねる。ウェルギリウスは、スタティウスが名を挙げたローマの劇作家、詩人たちが、彼らがその作品で取り上げた女性たちとともにリンボにいることを明らかにする。名を挙げられた女性たちは、広西にその徳をたたえられるような行為によって記憶される女性たちである。そして、煉獄の環道をこれまで通り崖の方に右肩を向けながら回っていくのがよさそうだといい、スタティウスと並んで、前を歩む。

二人は前を進み、私はただ一人
後ろに続きながら、彼らの話を聞いていた。
それは私に詩法の知恵を明らかにしていた。
(332ページ) 

しかし突然、道のただなかに見えた一本の木が
その喜ばしい話を断ち切った。
さわやかでおいしそうな香りの果実が実っていた。

そしてもみの木が、高みに向かって枝から枝へと
細くなるように、この木は下に向かって細っていた。
私が思うには、人は上へと登らせぬためであろう。
(同上) この上下がさかさまになった木は、旧約聖書の「創世記」に出てくる<善悪の知識の木>であり、天、すなわち神の真理から養分を得ているために、さかさまになっているのである。が、その一方で、預言者としての詩人の姿を示すものと受け取ることもできる。

 2人の詩人がこの木に近づくと、「おまえ達はこの食べ物を欠くであろう」(333ページ)という声が聞こえる。これは善悪の木の実を食べてはならないという「創世記」の中の神の警告を言い換えたものであるが、第6環道が飽食の罪を浄める場所であることを考えると、深い意味を考えずにそのままの警告と受け取ることもできる。そして、さらに質素な飲食をたたえる様々な言葉が聞こえる。

原初の世界は、すなわち黄金の美しき時代は、
粗食ゆえに団栗の実でさえ滋味に富んでいた。
そしてどの流れの水も喉の渇きゆえに甘露となった。
(334ページ)という3行はその中でも特に印象に残る。(セルバンテスの『ドン・キホーテ』のなかに、羊飼いたちの夕食に招かれて団栗を齧りながら、ワインを飲んだ主人公が、いい調子になって黄金時代について語る個所があるが、セルバンテスはダンテを読んでいたのかもしれない。) さらに砂漠の中で蜂蜜とイナゴを糧に暮らしていた洗礼者ヨハネの偉大な徳をたたえて第22歌は終わっている。

 これで『煉獄篇』前33歌の3分の2を読み終えたことになる。ダンテはいよいよ天国に近づくが、天国に向かうことはウェルギリウスと別れることを意味する。ウェルギリウスとスタティウスの会話を聞きながら、彼は何を考えていたのであろうか。
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