マイ・ファニー・レディー

1月8日(金)曇り後晴れ

 横浜シネマ・ジャックでピーター・ボグダノヴィッチ監督の『マイ・ファニー・レディ』を見る。原題は”She's Funny That Way”で「あの娘はあんな風にファニーなんだよね」というような意味である。ハリウッドのスターに上り詰めた若い女性イジー(イサベル:イモージェン・プーツ)が記者の質問に答えながら、自分がスターになってきた過程を思い出していくという枠の中で、彼女と偶然に出会ったブロードウェイの売れっ子演出家アーノルド(オーウェン・ウィルソン)や、その妻で女優のデルタ、デルタに好意を寄せるスター俳優、イジーに一目ぼれする脚本家、その脚本家の恋人のセラピスト…などが登場する。

 アーノルドはイジーに「君の将来のために3万ドルをプレゼントする」と言われ、さらにその後、彼が演出し、彼の妻のデルタが主演する舞台劇に出演するオーディションを受けることになる。そして見事に合格し、上演に向けての稽古が始まる。実は狭い世界の中での入り組んだ人間関係がもつれ合いながら繰り広げられるシチュエーション・コメディーである。舞台劇への取り組みを描きながら、映画の構成は必ずしも演劇的ではなく、現在と過去が映画的にまとめられている。3万ドルを与えるときに、リスとくるみの譬えが使われるのだが、これがある映画のパクリであることが、物語の進行とともにわかる。そんなことも見ていての楽しみの一つであろう。

 イジーにインタビューしている女性記者が何とか彼女の過去、コールガールだったという告白をひきだそうとするのだが、イジーもさるもので、なかなか口を割らない。その中で『ティファニー』をはじめとしていろいろな映画の中の台詞や映画スターのエピソードを引き合いに出す。イジーがどちらかというと理想に傾斜した「伝説」を語りたがるのに対して、記者が「真相」をぶつけて彼女自身の真相を暴きだそうとする。その丁々発止のやり取りも見どころの一つである。その中でリタ・ヘイワースのエピソードが出てきて、イジーとアーノルドが馬車に乗る場面が描かれるが、これは『上海から来た女』のリタ・ヘイワースとオーソン・ウェルズの場面を意識したのかな、と思ったりした。

 シチュエーション・コメディーというのはシチュエーション(状況)が生み出す喜劇ということで、この作品の初めの方でアーノルドがホテルに泊まって女を呼ぼうとして、自分の携帯電話とホテルの電話とを交互に使っている場面などがシチュエーションを利用した笑いの典型例といえるだろう。この他にも、偶然の鉢合わせとか、立ち聞きとか、考えられる喜劇的なシチュエーションは網羅されているようである。ここで笑いを呼ぶシチュエーションは、不倫とか二股恋愛が絡んでいるのだが、それほど猥雑であるとは感じられない。怪しげな職業をしているが、そういう雰囲気を感じさせないイジーの性格表現が生きている。彼女が『ティファニーで朝食を』のオードリ―・ヘップバーンの演技と台詞を引き合いに出しているのも効果的に思われる。記者の役をはじめ、イジーの尾行を依頼されている探偵の役とか、その他さまざまな脇役の個性的な表現が、主要登場人物の性格描写をさらに盛り上げている。

 それやこれや、一方で映画史の研究家として知られ、他方で喜劇づくりの名手でもあるボグダノヴィッチ監督の個性がよくいかされ、往年の名作を模した画面や台詞が頻繁に使われていて、その意味でも楽しい映画に出来上がっている。ただ、映画についてある程度の知識がある観客にとって面白くても、そうではない観客に面白いと思ってもらえなければ、興行的な成功は望めない。ボグダノヴィッチ監督の若いころの作品ではシチュエーション・コメディーとはいっても、ドタバタ場面が効果的に使われていたのだが、この作品では入り組んだ人間関係の織り成す喜劇性の方だけが強調されている。演技するほうだけでなく、演出するほうにとってもドタバタは体力がいるのかな、と思ったりした。もっと単純に笑わせてほしかったという気持ちもないではない。
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