ロバート・ファン・ヒューリック『観月の宴』

3月23日(土)晴れ後曇り

 3月12日(火)に読み終えたのだが、読後評を書かないまま10日以上がたってしまった。1月8日の当ブログで紹介した『紅楼の悪夢』と同じくオランダの中国研究家にして外交官であったロバート・ファン・ヒューリックによる判事ディー・シリーズの長編ミステリ。ディー(狄)判事がその第3の任地である蒲陽県の知事であった時代の出来事として設定されているが、事件の舞台は蒲陽県の隣、あまりよい友人とは言えない同僚の羅寛充が知事を務める金華県である。羅知事は『紅楼の悪夢』でも自分の管轄下で起きた事件の処理を狄に任せて出かけてしまった「前科」がある。

 金華県にやって来た州の長官が管轄下の県知事を集めて会議を開くことになった。その夜、羅知事は詩人として名高い邵範文博士、張攔博郎中、禅僧の魯導師を呼んで晩餐会を、さらに翌晩には仲秋の月見の宴を開くことを計画、その席に狄判事も呼ぶ。詩には全く縁のない狄判事が呼ばれているのはなぜか?

 羅知事に半ば強引に誘われた狄判事は金華県で地元資料を調べようと滞在していた宋挙人が何者かに殺害されたという事件の報告を受ける。羅知事は予想以上に手際良く事件の処理にあたっているが、宋の遺品の中に珍しい笛の楽譜が見つかる。事情聴取を受けた女中の1人は宋には女がいて、その正体は狐であったという。狐媚(狐の妖術)は中国の古い迷信である。

 宿舎に戻った狄判事に羅知事は晩餐会と観月の宴にはもう1人、閨秀詩人として名高く、下女を鞭で打ち殺したとして告発を受け、都に護送されている幽蘭が加わるという。彼は彼女が無実であると信じ、狄に援助を求めているのである。

 笛の楽譜について詳しく知ろうとした狄は名人の家で、晩餐会で踊ることになっている小鳳に出逢う。彼女の話から、土地の古い曲である<玄胡行>が事件の鍵となると考えた狄はいつもこの歌を歌っているという鬱金という娘を訪ねる。彼女の素性には謎があるらしい。

 波乱含みで進行した晩餐会は、狐にまつわる古民話と関連する<玄胡行>を小鳳が踊ることでクライマックスを迎える予定だったが、彼女が何者かに殺されることで思いがけない終わり方をする。そして関連していないと思われた事件の関連が浮かび上がり、事態は急激に進展していく。

 著者があとがきで触れているように幽蘭は唐代の女流詩人魚玄機(843-868)をモデルにしている。この詩人については森鴎外の「魚玄機」という短編小説があることは、訳者(和邇桃子)があとがきで書いている。魚玄機は狄仁傑よりも後の時代の人であるが、狄の時代にはやはり女流詩人の上官婉児が生きていたことを思い出すのも一興であろう。詩、笛、狐媚の伝説などを小道具に使って中国趣味を盛り上げながら、ミステリを組み立てて行くヒューリックの語り口はなかなかのものである。『紅楼の悪夢』同様、狄判事の部下たちの活躍が見られないのが残念。 
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