西田龍雄『アジア古代文字の解読』(2)

12月11日(金)午前中、激しい風雨(主として強風、冬らしくない温暖な風で、家から出たときに眼鏡が曇ったほどである)、その後、晴れ間が広がる。夕方になって、また雲が多くなってきた。

 前回(12月3日付)は、この書物の第3章までを取り上げた。第1章「未解読文字への挑戦」では、未解読文字の解読作業はどのようにして行われるかを概観しているが、チベット文字で書かれた文書を残した謎の言語であるシャン・シュン語や、920年から1191年まで約270年間中国の東北部にあった遼の国字である契丹文字(未解読)の事例を持ち出しているのが、この後の内容を予想させるものである。第2章「ロロ文字のはなし」では四川省の南、涼山彝族自治区で今でも使われている彝文字≂ロロ文字について概観している。もともと表意文字であったものが、次第に表音文字化してきたもので、その動向は今後の中国における簡体字の動きとも関連して興味深いものだと著者は論じている。第3章「水文字暦の解読」は貴州省に住む水族のタイ語系の言語を記す文字である水文字(水族の中でも巫師だけが使っていたので、彼らがいなくなってしまったため、読めなくなったのである)について、その解読作業の様子を記している。

 第4章「西夏文字の組織と使い方」は、11世紀から13世紀にかけて中国の西北部にあった西夏国の公用語である西夏語を書き表すために用いられた西夏文字について概観している。前回にも述べたように西夏文字の解読とそれを通じての西夏語の復元は、西田の最も顕著な業績として知られている。西夏語はシナ・チベット語族に属する言語であるが、現在では使用する人々がいなくなっている。とはいうものの、研究者によって大量の文献が発見され、漢語やチベット語と対照できる資料も豊富に揃っており、特に各文字につけられた反切(もともと漢字の発音を示すために考案された方法であるが、ここでは西夏文字の発音を示すために用いられているようである)が、西夏語の発音の重要な手掛かりとなる。また西夏人の手によって編纂された単語集も貴重な手掛かりとなる。
 ここでは文字の実例を示すことができないので、簡単に言うと、西夏文字は漢字と同様に、いくつかの要素を組み合わせて一定の意味を示す文字を作るのであるが、その組み合わせ方にも決められたやり方があって、きわめて複雑な文字体系である。西夏語はシルクロードと東西の交流を知る上でも重要な言語であり、その解読資料として仏典が大きな役割を果たしたことも興味深い。とはいうものの、未解決の問題も残されていることを著者は包み隠さず語っていることも注目される。

 第5章「女真文字の成立と発展」では西夏の東にあった金の主要民族であった女真族の言語を記すために、西夏文字から少し遅れ、12世紀に、漢字や契丹文字の影響を受けながら考案された女真文字について取り上げている。女真文字の資料としては少なからぬ碑文のほかに、漢語との対訳単語・文例集である『女真館訳語』という信頼度の高い書物が残っていて、早くから研究が進んでいた。とはいうものの、金では仏教は盛んではなかったので、仏典などの資料はなく、また金人による女真語の著作の例も見当たらないのが西夏語の場合と違うところである(金の知識人たちは漢語でその著作活動を行っていたのである)。しかし近年になって新しい資料が発掘され、その研究は新しい方向へと進んでいる。
 「大雑把に言うと、契丹文字と女真文字は、やや近い性格をもつが、それらと西夏文字は、少しかけ離れた体系を示している。
 アルタイ系言語の契丹語・女真語とチベット・ビルマ語系の西夏語の性格の相違は、単語構造にもっともはっきりと認められる。したがって、それぞれの文字の性格の相違もその単語構造の差異を反映するところにもっとも顕著にあらわれる」(156ページ)と著者は言う。女真文字の場合は、西夏文字のように一字が一音節を表記しているとは限らず、表意字形と表音字形とが混用されている。さらに表意字の中には漢字の字形を借用している例もある。西夏文字が単体文字のほかに、漢字の会意・形声字にあたる合体字を多く含んでいるのに対し、女真文字は単体文字だけであるという。西夏文字の場合のように漢字の構成原理についての十分な理解をもとに考案されたのではなく、表面的な模倣によって成立したものであったために、女真文字はきわめて覚えにくい文字であり、そのために不人気であり続けたという。これは文字の学習について考える際に重視すべき事柄ではないかと思う。

 では、この女真文字に影響を与えたとされる契丹文字はどのようなもので、どの程度、解読が進んでいるのか、またこれらの文字すべて、そしてそれ以外の周辺の文字にも影響を与え続けてきた漢字について、どのように考えるべきかは、さらに1回機会を設けて論じることにしたい。 
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