ダンテ・アリギエリ『神曲 煉獄篇』(18-2)

11月29日(日)晴れ、少し雲が多くなってきた。

 古代ローマの詩人であり、この叙事詩では理性の象徴としての役割を与えられているウェルギリウスに導かれて、ダンテは第17歌の中ほどで煉獄の第4環道に達した。既に書いたように、『煉獄篇』は33歌からなるので、17編はちょうどその中央の一を占める。ここでダンテはウェルギリウスに対し、第4環道ではどのような罪が清められているのかを問う。すると、ウェルギリウスは善への愛の不足=怠惰がここでは償われているという。そして創造主と被造物をつなぐ存在が愛であり、この宇宙を構成する摂理が、煉獄を構成していると語る。
 ウェルギリウスの説明を聞いて、ダンテにはさらに疑問が生じる。第18歌はあらゆる善行もその逆も愛に起因するというウェルギリウスの説明が納得できないのである。ダンテは、かつて清新体派の詩人の1人として愛を至高善と考える詩を作っていた。これに対しウェルギリウスは愛それ自体は善であっても、人間の「心」がそれに盲目的に従った結果は善であるとは限らないという。ダンテは行為の源となる愛が生まれつきのものであるならば、魂は自分の行動に責任を負えないのではないかとさらに質問する。ウェルギリウスは、それは信仰の問題であると断りを入れたうえで、彼の知る哲学の範囲内での説明を試みる。

あらゆる本質的形相、その中でも
質料とは区別され、かつ質料と一体化しているものは、
種特有の能力を己のうちに保持している。

その能力は活動しなければ感知されず、
活動の結果を除いて姿を現すことは決してない、
緑の葉によって植物の生命が知られるように。
(266-267ページ) 人間の本質的な形相である魂は、肉体とは別個に存在し、かつそれと結合している。天使は形相だけからなり、一方動植物は質料が滅びると形相も消滅する。人間は質料である肉体が滅びても、形相である魂が残る。本質的形相とは事物をそうあらしめる形相因(例えば種としての特徴)であり、この他に二次的な特徴(例えば個としての特徴)を与える偶有的形相因がある。人間を人間たらしめる形相因である魂は質料と一体化しているというのである。「種特有の能力」は人間特有の能力のことで、それは可能性として存在している。だから、能力は実際に何かをしてみないと分からない。

それゆえ、人類は第一概念の知が、
また第一に欲する事物への愛が
どこから来たかを知らぬが、

それらは、蜜蜂の中に蜂蜜を作る
欲望があるように、おまえ達の中にある。この第一の欲求は、
賞賛に値するか非難に値するかの問題を含まぬ。
(267ページ) 「第一概念」とはアリストテレス哲学で論理的思考の基盤となる論理・知識で、理性を成立させる概念である。同じくアリストテレス哲学において人間が最初に求める価値は真・善・幸福である。それらは人間に生れつきのものであるという。

さて、この欲求にその他の欲求を合致させるために、
判断する能力がおまえ達の中に生来備わっており、
かつ、それが同意の閾を司っていなければならぬ。

これこそが、善なる愛または悪しき愛を受け入れるか拒絶するかに
従い、おまえ達に対する賞罰の理が
獲得される、その原則である。
(268ページ) 古典古代の哲学者たち、とくにプラトンとアリストテレスはこれらの問題を深くまた詳しく研究し、人間が生まれつき持っている自由に気付いた。そしてそのことを後世に伝わる倫理学に関する著作のなかに書き留めた。

したがって、おまえたちの中で燃え上がるあらゆる愛が
必然により起き上がるのだと仮定しても、
おまえ達の中にはそれを支配する力が存在する。

この高貴なる力こそ、ベアトリーチェが
自由意志と呼ぶものだ。
(同上) 善なる愛、悪しき愛のどちらを選び、行動するかの自由が人間にはあるという。この「高貴なる力」を哲学では<生得的自由>である「生来の自由」、神学では「自由意志」と呼ぶ。ここでベアトリーチェは神学を象徴する存在として描きだされている。

 こうしてウェルギリウスから説明を聞いて、疑問を解かれたダンテは、眠気に襲われてぼんやりとする。

 私が昔、少し齧ったカトリックの哲学では、人間には理性と良心、自由意志があるということであった。ここで展開される議論では良心が登場せず、自由意志が強調されているのが特徴的である。ダンテがアリストテレスの哲学をかなり詳しく読み、理解していることに驚くが、彼の理解が正確なものかは、彼のキリスト教信仰がどのようなものかと並んで、『神曲』を読むものが追求していくべき問いではないか。
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