読書の方法をめぐって

11月16日(月)晴れ後曇り

 宮川敬之『和辻哲郎――人格から間柄へ』(講談社学術文庫)の「学術文庫版へのあとがき」の中で、和辻がある問題について考えるときに、その問題について書かれた第一級の書物を詳しく読み込んで、ノートを作り、それを講義の種本にしたり、論文の草稿にしたりしていたという話が紹介されている。この和辻の読書の仕方は、『知的生産の技術』で梅棹忠夫が述べている読書の流儀とはかなり異なっている。

 梅棹は本を読む時には、線を引いたり書き込みをしたりしながら読んでいたようだが、その際にどうするか、次のように書いている:
「本に線をいれる個所にはあきらかにふたつの系列がある…。第1の系列は、『だいじなところ』であり、第2の系列は、『おもしろいところ』である。
 『だいじなところ』というのは、その本を理解するうえで、カギになるようなところか、あるいは、著者のかんがえがはっきりあらわれているところなどである。それはいわば、『その本にとって』だいじなところなのである。まえに、本は著者の身になってよむものだ、ということをかいたが、この『だいじなところ』に線をひくのは、まさにその精神のあらわれというべきだろう。
 ところが、じっさいには、その書物の本筋とはほとんど関係ないような、場合によっては著者が気がつかずにかいているようなことがらで、ひじょうにおもしろくおもって、傍線をいれている場合がすくなくないのである。これが、「おもしろいところ」であって、そのおもしろさはまさに、「わたしにとって」のおもしろさである。わたしの傍線をひいた部分を、もし著者がみたら、おどろきあきれるかもしれない、そういう性質のものである。
 すると、わたしは本をよむのに、じつは二重の文脈でよんでいることになる。ひとつは著者の構成した文脈によってであり、もうひとつは、わたし固有の文脈によってである。それは、まったくべつのもので、一本にはならない。」(111-112ページ)

 和辻の場合は、著者の意見をまとめながら、自分自身の意見も書き留めていったのであろうが、梅棹は2本立てを断行している。和辻と同じようにノートを作っている人は少なくない(ただし、和辻ほど密度の高いノートを長年にわたって、持続的に書き溜められるか
は保証の限りではない)。岩波新書から出ていた『私の読書法』の中で大内兵衛が新渡戸稲造から教えられたという読書法が、本を読む時は赤と青の色鉛筆をもて、大事なところには赤い線をひき、面白いと思ったところには青い線をひけというもので、梅棹の読書法と似ている。(梅棹の文章を読んでいて、彼のここで書いていることの趣旨とは関係がないのだが、彼が本当に漢字を使わない人だなぁということを実感した。これは青鉛筆の方の話である。)

 私は本に書き込みをしないようにしているので、楽しみのために本を読む時はただ読んで、なにか気になることがあれば、ノートに書き留めておくだけであるが、研究用の読書の場合は読書ノートを作る。あるいは外国語の本や論文を読む時は、翻訳もしくは要約のファイルを作成することもある。そういうときには、著者の意見と自分の意見が混乱しないようにインクの色を変えるとか、書体を変えるとかいう工夫をしている。梅棹はフィールドワークをしてその結果に基づいて研究を進めるのが本筋だった人で、読書はそうした研究を補完する作業だったのだが、私の場合は、読書のほうが本筋になる。だから全く同じ読書法をするわけにはいかないのである。

 何が言いたいのかというと、読書はさまざまな先人の工夫に学びながら、自分なりのやり方を考えるべきだということ、それにはまず本を読んで、考えて、考えたことを書き残しておくことが必要だということである。そして、自分なりのやり方を改善しながら、何年も努力を積み重ねていくことが大事だということである。

 『知的生産の方法』の最初の方で、梅棹は学校が「知識はおしえるけれど、知識の獲得のしかたは、あまりおしえてくれないのである」(3ページ)と書いている。当世風の例をもってくると、池上彰さんの時事解説を聞くことも勉強になるが、池上さんがどのように情報を収集し、整理・分析しているか、彼の勉強方法を教えてもらうことはそれ以上の意味があるのではないかということである。
 それでインターネットで池上さんの情報収集術について調べてみたが、新聞を読んで記事の切り抜きファイルを作るとか、『ニューズウイーク』や『エコノミスト』を英語で読むとか、暇な時はCNN放送を聞き流すとかいうような、一つ一つはある意味で平凡だが、持続させることは難しいようないくつもの努力をしていることがわかった。個々の方法にも学ぶべき点はあるが、一番学ぶべきであるのは努力を持続させることであろう。あと、ノートでもカードでもファイルでも同じことだが、努力して書き溜めたものが、必要な時にはすぐに取り出せるように整理していくことも必要で、この点では私はまだまだ梅棹から学ばなければならないことがありそうだと思っている。
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

Author:tangmianlaoren
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR