ギターを持った渡り鳥

11月14日(土)雨

 神保町シアターで「作曲家・小杉太一郎の仕事」特集上映から、『ギターを持った渡り鳥』(1959、日活、齋藤武市監督)を見る。同じ年に公開された『南国土佐を後にして』(日活、齋藤武市監督)の成功をきっかけとして製作されることになった『渡り鳥シリーズ』の第1作である。
 ギターを携えて荷馬車に揺られ北海道を旅してきた滝伸次(小林旭)は函館の町にたどりつき、バーで米兵に暴行されていた流しの男たちを助けたことから、そのバーのマダムであるリエ(渡辺美佐子)の口利きで、土地の顔役秋津礼三郎(金子信雄)のもとで働かないかと誘われる。縛られるのが嫌いだと断った滝は、小舟の中で夜を過ごしていると、モーターバートに乗った令嬢秋津由紀(ということは秋津礼三郎の娘ということである、浅丘ルリ子)に出会う。モーターボートが小舟の周りをまわる場面は中平康監督の『狂った果実』のラスト・シーケンスを思い出させる。秋津は自分の娘の前では本性を明らかにしないが、裏ではかなり非道なことをしているようである。そういうことを飲み込んだうえで、滝は秋津のもとで働くことになる。

 秋津は函館山の麓に娯楽センターの建設を考えており、その候補地に立地している丸庄海運の土地と建物を手に入れようとしているのだが、この会社の社長(木浦祐三)の妻である庄司澄子(中原早苗)は実は秋津の妹である。由紀は滝に惹かれるが、2人の間が進むことを秋津は喜ばない。秋津のもとで働いているうちに滝には彼のやっていることが次第に分かってくる。その一方で、秋津のもとに神戸からやってきた腕利きの殺し屋ジョージ(宍戸錠)の記憶から滝の身元が明らかになりかける。それに加えて、滝のいくところに謎の男(二本柳寛)が姿を現す。一方、ジョージを追いかけて函館へと流れてきたダンサー(白木マリ)の存在も何か気になる。ジョージと滝とは、丸庄海運から取り上げた船で出航し、麻薬を運んできた船から受け取ることになる…。

 冒頭の北海道の原野の場面は西部劇を念頭に置いたものだろうが、物語の主要な舞台は地方都市に置かれる。主人公がどこか謎めいた過去を引きずっており、同じように過去を引きずった悪役が出てきたり、その悪役を追いかけている女性が登場したりということでストーリーがにぎやかになっている。まだまだ手探りの感じで、小林旭が題名の通り「渡り鳥」よろしく日本列島の各地を流れ歩くシリーズのその後の作品におけるほどに、登場人物の性格設定もストーリーも洗練されているとはいいがたいのだが、小林旭、浅丘ルリ子、宍戸錠という主要登場人物の若さが、今日の目から見ると懐かしいという以上のものを感じさせる。いや、悪役を演じている今はなき、金子信雄にもそうした若さが感じられるのである。

 特に浅丘ルリ子が後年の研ぎ澄まされたような美貌以前の、少しふくよかな美しさを見せているのが魅力的である。この作品では、浅丘ルリ子は悪役の娘ではあるが、善良という少し複雑な役柄になっているが、これ以後の作品では悪役に土地を奪われようとしている令嬢という設定が多くなる。小林旭と早撃ちを競う負のヒーローを演じる宍戸錠の設定もシリーズが進むとともに次第次第に膨らんで楽しくなっているのは御存じの通り。この作品で中原早苗が演じている役どころは、この後は南田洋子が演じることが多くなるし、その方が適役だと思う。中原早苗はこの後、小林旭をあちこち追いかけ回している女性の役で登場することが多くなるが、そちらの方が明らかに適役である。この時期の日活のアクション映画全般について言えることではないかと思うのだが、中原早苗が登場すると、ストーリーが動く、という作品が少なくなかったように思う。悪役の情婦でバー(クラブ)のママという役どころは、この後、渡辺美佐子と楠侑子が分け合うことになるが、私は楠のほうが適役ではないかと思っている。ただこの作品での渡辺の存在感はなかなかのもので、小林旭と浅丘ルリ子があくまでもプラトニックな恋愛の空気の中にいることに不満な観客の不満を和らげるような体当たりの演技を見せている。そういう目で見ると、白木マリの出番をもう少し多くするとか、あるいは露出度を大きくするような工夫があってもよかったのかもしれない。

 昨年、NHKのBS放送で見ているし、見る機会に乏しい、「幻の映画」というわけではない。今回の上映でも、11月20日まで予定が組まれているので、興味のある方は足を運んでいただきたい。私は見逃してしまったが、『南国土佐を後にして』も近い時間帯で上映されることがあるので、時間に余裕がある方は両方ともご覧になることをおすすめする。娯楽映画には娯楽映画なりの存在理由があるし、年配の観客は俳優たちの若さに自分たちの若かった時代をかぶせてみることができるし、若い観客は過去の時代の魅力を探る機会になるだろうと思う(魅力を感じないというのであれば、それも一つの見識を得たということでよいのではないか)。

 最後に一言。金子信雄の夫人である丹阿弥谷津子がタクシーに乗ったら、運転手から「奥さん、あんな悪いやつとは別れた方がいいよ」と言われたことがあるそうだ。これは金子が自分のエッセーの中で書いていたと記憶する。丹阿弥が金子の夫人であるという知識を持っている人が、映画や演劇、テレビドラマでの役柄と実際の人生における人柄が別物であるということを理解できないというのは、どうも困ったことで、なぜそうなのか、いろいろと考えさせられる。
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