田中啓文『あんだら先生と浪花少女探偵団』

11月9日(月)曇り

 田中啓文『あんだら先生と浪花少女探偵団』(ポプラ文庫)を読む。大阪の新世界界隈を主な舞台として、小学校5年生の2人の少女と彼女たちが通う小学校の校長が、学校とその周辺で起きるさまざまな怪事件を解決しようと活躍する。第1話「真田の抜け穴」と第2話「布袋さんの祠」は、2009年に『あんだら先生とジャンジャラ探偵団』という題名で理論社から刊行された書物に収められていたものを加筆・訂正、さらに第3話「ツチノコを探せ!」が付け加えられて文庫化されたものである。

 田中啓文という作家については、同業者の大倉崇裕が落語の世界を舞台にした推理小説として田中の「笑酔亭梅寿謎解噺」シリーズが面白いと推奨していることから注目しはじめ、このシリーズや「鍋奉行犯科帳」シリーズを立ち読みしている。主として立ち読みで済ませているのは、本屋の店頭にシリーズが揃っておいてあるとは限らず、買いそろえるには至らないからである。とはいえ、落ち着いて読んで、批評してみるだけの価値のある作品を書いている作家であると思うので、とりあえずシリーズ以外の作品を取り上げてみることにした。この作品はもともと中高生向きに書かれたものではあるが、作者が認めるように、「ふたりの少女が主人公ではあるが、ヤクザは出てくるは、拳銃は出てくるは、覚せい剤は出てくるは、酔っぱらいのおっさんは出てくるは・・・・・教育上悪いっちゅうねん」(378ページ)という内容で、そうはいっても、勧善懲悪の枠組みにははまっていて、「子どもから大人まで楽しめる」おもしろ小説ということになるのであろう。

 祖父が営むうどん屋を父親が手伝うことになったために東京から大阪へ引っ越してきた森本めぐは大阪府立星くず小学校という奇妙な学校に転校する。そこでお好み焼き屋の娘である絵川千夏と親友になる。この学校の校長である「あんだら先生」(何かというと「あんだらあっ」と怒声が飛ぶのでこの名がある)=鶴羽圭輔は独自の教育論を持ち、学校と生徒を愛する熱血漢であるが、大酒呑みの大喰らいである。千夏はめぐを連れて学校のあちこちを案内するが、学校のすぐ近くの寺の境内でやくざ者と2人のクラスの担任の教師が会っている場面を見てしまう。しかし、その時間に、クラスでは担任が授業をしていた・・・というのが「真田の抜け穴」。2人はジャンジャラ探偵団を結成して謎解きに挑むが、その2人の挑戦を校長が励ます。

 第2話「布袋さんの祠」では2人の家を含む商店街でグルメ・ラリーが企画され、めぐの家のうどんを食べる大食い大会が近くの安曽呂寺の境内で開かれることになる。この寺には布袋さんの祠がある。めぐたちのクラスの男子も大食い大会に退去出場するが、、どうも近頃給食がたくさん食べられないという話が出る。そして、大食い大会になるが、優勝した大食いタレントも普段に比べると小食で、大会が終わった後目を回してしまう。なぜ、こういうことが起きたのか…。

 第3話「ツチノコを探せ!」ではめぐが芸能事務所にスカウトされて、モデルとしてデビューする話が進む。その一方で星くず小学校は耐震構造の不備を理由に市立小学校と統合されようとしている。学校を人一倍愛している鶴羽校長は5,000万円の賞金がついているツチノコを見つけ出そうと張り切るのだが、なかなか見つからない。その一方で、学校の近くのどこかに大坂の陣の際に真田幸村が埋めた軍資金が隠されているという噂も飛び交う。めぐは千夏との思い出作りに2人で漫才のコンビを結成し、コンテストに出演することを決める。千夏の離婚した母は、最近人気を伸ばしてきた漫才の片割れである…。

 田中の作品には大阪(を含む関西)、笑い、グルメというような共通項がある。この作品もその例外ではなく、偏食がよくないという議論に対して、「パンダを見てみい、笹食うだけであんなにでかいやないか」(58ページ)と反論する校長や、大食い大会について「うちはそんなことせんかて、毎日が大食い大会みたいなものや」(162ページ)と店の常連客の様子をもとに論評するめぐの父親など、2人の少女の周辺の大人たちがさまざまな笑いを提供する。少なからぬ登場人物がそれぞれの特技や必殺技をもった個性的な存在として描き分けられているのも面白い。落語に関係する話題と言えば、小学校の教頭がカツラをしているので、カツラ米朝とあだ名されているぐらいのところで、2人の少女が漫才に取り組むなど、漫才にお株を奪われている感じである。

 作者は言う:「ぼくははるき悦巳先生の「じゃりん子チエ」という漫画が大好きです。新世界界隈という、大阪の下町のなかでも非常にディープな場所を舞台としたユーモアものなのですが、すでに連載が終わっていて、新作が読めないことを残念に思っていました。この本ではぼくなりに「じゃりん子チエ」の世界を描いてみようとチャレンジしました。「パクり」ですって? いえいえ、こういうのは「トリビュート」というのです(汗)」(379ページ)。
 作者の意図は十分に達成されていると思うし、この作品の続編を期待する読者も少なくないはずである。
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