今野真二『常用漢字の歴史』(2)

11月2日(月)午前中は雨が降っていたが、その後降りやんだ。

 10月22日付の当ブログで、この書物の趣旨と、第1章「漢字制限の歴史」の概要を取り上げた。今回は第2章「さまざまな常用漢字表」と第3章「字体をめぐる問題」についてみていくことにしたい。
 第2章「さまざまな常用漢字表」は明治時代から今日に至るまで国の機関によって制定された漢字表9種類を中心に日常生活の中でどのように漢字を使って文章を書いていくかをめぐる政策の変遷をたどっている。これらの施策の底流にある漢字制限と仮名遣いの改定が、大正から昭和にかけての国語問題をめぐる議論をリードした保科孝一(1872-1955)の持論でもあったことが最初に触れられている。

 明治以降に国の機関によって制定された漢字表は次の9種類だという。
①小学校令施行規則第3号表 文部省       明治33年 8月  1200字
②常用漢字表           臨時国語調査会 大正12年 5月 1963字
③修正常用漢字表        臨時国語調査会 昭和 6年 5月  1858字
④標準漢字表           国語審議会    昭和17年 6月  2528字
⑤修正標準漢字表        国語審議会    昭和17年12月 2669字
⑥当用漢字表           国語審議会    昭和21年11月 1850字
⑦当用漢字別表          国語審議会    昭和23年 2月   881字
⑧常用漢字表           国語審議会    昭和56年10月 1945字
⑨改定常用漢字表        文化審議会    平成22年 6月  2136字

 著者もこの章の終わりの方で述べているが、ずいぶんいろいろな漢字表があったというのが率直な感想である。これらのほかに文部省は大正8(1919)年に漢字の字体を整理した「漢字整理案」を発表した。ここではこれまでの社会における慣用を重視しながら字形の整理を進めようとしているが、その背景として活字体と手書体の間に大きな違いが生まれていたことが注目される。字形の問題については第3章で改めて検討を加えることになる。

 1つ1つの表の制定の経緯やそれぞれが掲げている原則について論じていくと量がかさむので、詳しくは書かないが、漢字の使用を制限することは、制限された漢字を使わないで済むように語彙を変えたり、言い換えたりすることを促すものである。漢字表作成の作業は、一方で教科書、他方で新聞等の出版物の中でどのように漢字を使用するかという問題とかかわり、もっと大きく言うと日本語の変化ともかかわっている。逆に日本語がどのように変化しているかが、これらの漢字表の推移を辿ることによってわかると著者は述べている。

 第3章「字体をめぐる問題」は文部省が行った字体調査に基づいて明治41年に発行し、その後も版を重ねた『漢字要覧』を取り上げる。ここでは楷書体が主要な字体とされるが、これは江戸時代からの伝統を引き継いだ認識であったと考えられる。また、「正体」と「別体」の区別については『説文解字』、『干禄字書』、『康煕字典』などが参照され、「中国における漢字の字体規範を整理したもの」(112ページ)であって、「『日本における漢字の使用実績』から帰納されたものではない」(同上)ことに注意を向けている。さらに印刷と手書きの場合、筆順の問題などについても触れる。今日では電子的に文字が処理できるために、手書きするのが難しい文字でも使用されるようになって、漢字制限の背景にあった前提が崩れている。著者は「現代は、…『現在の技術でできることはやる』あるいは『こういうことを実現させるために技術を進める』という発想が主流となっているようにみえる。そのために、漢字をめぐる一貫した考え方というおのがなくなりつつあるように思われてならない。筋のとおった一貫した考え方は、いついかなる時においても必要であろうし、それは大事にしないといけないはずだ。しかしどうもそうではなくなってきている。『常用漢字表』が一貫性を失いつつあることには危惧観をもっている」(157ページ)と感想を述べてこの章を締めくくっている。傾聴すべき意見ではないかと思う。

 漢字の使用を制限する、あるいは字体を統一するというような取り組みの背景には、読む者にとって分かりやすく、書く者にとって便利なように表記法を改革していく、そのためには一定の品詞の表記には漢字を使用しないというような原則を定めて、その原則が広く浸透するように教育を進めるべきであるのだが、ワープロソフトの開発以後の日本語表記をめぐる動きはこれとは逆の方向に向かっているのではないか。著者が危惧しているのはこの点であると思われる。最近ではカタカナ言葉の使用がやたらと増えているのも問題であって、それが日本語の今後の方向とどのようにかかわっていくのかも考えないといけないと思う。
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