アリバイ

11月1日(日)晴れ

 10月31日、神保町シアターで「作曲家・小杉太一郎の仕事」特集上映のなかから『アリバイ』(1963、日活、牛原陽一監督)を見る。小杉太一郎(1927-1976)は俳優であり監督もしている小杉勇(1904-1983)の長男として生まれ、東京音楽学校で伊福部昭に作曲と管弦楽法を学ぶが、伊福部が学校の指導部と対立して辞任したのに同調して退学、伊福部のアシスタントを務めた後、1952年に「6つの管楽器のためのコンチェルト」により楽壇にデビュー、1953年に父の監督する映画『健児の塔』の音楽を担当し、以降、プロとしての音楽活動を続けた。内田吐夢の戦後復帰第1作『血槍富士』(1955)や『宮本武蔵』シリーズに代表される時代劇、現代劇、ドキュメンタリー、アニメーションなど300本を超える映画作品の音楽を担当したが、病魔のため若くして世を去った。

 『アリバイ』は警視庁の全面協力を得て製作された刑事ものの映画で、この作品でチーフ助監督を務めた熊井啓が脚本を担当している。都内の住宅地で経理士が射殺される。若い畑中(二谷英明)と退職間近の佐川(宮口精二)の2人をはじめ、捜査1課の刑事たちが捜査を進める。犯行に使われた銃の行方を追ううちに、大野(小高雄二)という男が浮かび上がり、その身柄を確保するが、凶器が発見できない。
 被害者の経理士のもとに送られていたギフトカードから、千恵(渡辺美佐子)という女と、その夫である貿易商の呉羽(陶隆)が捜査線上に浮かびあがる。呉羽は知能犯を追及する捜査二課が何度も疑惑を持ちながら、逃れ続けてきたいわくつきの男であり、捜査二課の刑事も加わって捜査を進める。

 千恵はもともと大野の恋人であり、大野と別れた後に呉羽と結婚していたのであった。彼女は事件の犯行時刻に、大野と2人で薬局でドリンク剤を飲んでいると証言、薬局から入手した空き瓶を調べた結果、大野の指紋が検出され、彼のアリバイが成立した。それでも佐川は長年の経験から大野が犯人に違いないと考え、いったんは大野の犯行ではないと思った畑中もそれに同調する。 呉羽は電機会社に融資話を持ち掛けて、損失を与えているのだが、スキャンダルの発覚を恐れた会社の執行部は警察に向けて事件とのかかわりを明らかにしようとしない。
 佐川には重病の妻がいるが、それでもこれが最後の事件になるという思いから捜査を続けている。捜査に協力しない会社の幹部たちが、呉羽の一味から襲撃される恐れがあるというので警戒を怠らない…。

 『アリバイ』という題名ではあるが、ストーリーの核心は「アリバイ崩し」にある。刑事たちの捜査にかける執念を描き、その一方で私生活も垣間見せるという点では、野村芳太郎の名作『張込み』(1958、松竹)を思わせる。『張込み』でもこの作品と同様宮口精二がベテランの刑事を演じているから余計にそう思われる。『張込み』が大作で、上映時間が長かったのに対し、こちらは低予算の映画で、上映時間も短い。事件のカギを握る女性を『張込み』では高峰秀子が演じ、こちらは渡辺美佐子が演じているというのが映画の性格を物語っている(優劣というよりも、個性の問題である)。『張込み』は犯人逮捕に至る過程の長さが、上映時間に反映されているのに対し、『アリバイ』は物語の展開が速く、アリバイ崩しに至る過程がやや安易に描かれているのは欠点と言えようが見ていて退屈することはない。

 展開の速さを支えているのは、新劇畑の俳優が多く出演していることによって生まれる現実感である。美男美女がほとんど出てこない(失礼!)こともあって、現実味がある。警視庁の協力を得ているので、捜査の手法や警察の組織系統についての知識を得ることができる一方で、官僚機構としての警察の非能率であるとか腐敗とかいう問題は登場せず、警察官がひたすら真面目に事件の解決に取り組む様子が描かれている。現在では捜査手法もさらに改善されている一方で、犯罪はより複雑になっている。したがって、より複雑な事件を描く映画(あるいはテレビドラマ)に接した後で見ると、まだまだ習作という印象が生まれてしまいそうではある。
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