シャーロット・マクラウド『納骨堂の奥に』

10月9日(金)晴れ

 10月7日、シャーロット・マクラウド『納骨堂の奥に』(創元推理文庫)を読み終える。

 ボストンの名門ケリング一族に生まれたセーラは10代の後半に寡夫であった父を不慮の事故で失い、子どものころから慕ってきた年長の従兄であるアレグザンダー(アレックス)と結婚する。「一世代ほど前までは、ケリング一族はまたまた従兄弟やまた従兄弟、それどころか実の従兄弟の中からさえ配偶者を選ぶことがしょっちゅうだった。理由の半分は結束の固い集団であることで、もう半分は財産の流出を防ぐため。セーラの両親は同じ一門の別々の分家から出たが、誰も特筆すべきこととは考えなかった。また親類の誰も、その2人の結びつきから生まれたたった1人の子が親のまたまた従兄の子と正式に結婚したのを、よろしくないとは思わなかった。アレグザンダーがもうじき41、孤児になったばかりのセーラがまだ19にならない頃のことだったが」(11ページ)。

 セーラの大伯父にあたるフレデリックは一族の長老であったが、遺言で死んでもマチルダ大伯母とは一緒に葬られたくないといったため、一族が昔使っていた納骨堂を開けて中の様子を確認しなければならなくなった。彼女は従兄のアドルファス(ドルフ)とともに納骨堂に出かける。何十年ぶりかで開けられた扉の向こうには赤レンガの壁が築かれていて、それを壊して入ってみると、朽ち果てた死骸が一体横たえられていた。その死骸の歯にルビーが光っていることから、それが30年というもの行方が知れなかったストリッパーのルビー・ディーのものであることがわかった。

 セーラが帰宅するとアレグザンダーは親友のハリーから夕食に誘われたといって、彼女を急かすので、この日あったことを話しそびれてしまう。ハリーはアレグザンダーと高校、ハーヴァード大学を通じての友人であり、資産家の娘のライラと結婚して、出版社を経営している。アレグザンダーもセーラも時々その仕事を手伝わされるのだが、報酬はほとんどない。
 夕食にはある事故のために目が見えなくなっているアレグザンダーの母のキャロラインも出席する。彼女は障害があるにもかかわらず元気がよく、我がままでもあり、アレグザンダーは目の不自由な彼女のためにその時間の大半を割いている。キャロラインとライラは中央と地方の政治の様々な行事に参加するなどして、仲がよいが、2人ともセーラを見下した態度をとる。(2人ともケリング一族の人間ではないことも注意しておいてよい。)
 夕食にはさらにハリーの部下の若者ボブ・ディーとハリーの出版社から新たに本をだすことになったマックス・ビターソーンという宝石の専門家が参加することになっているが、マックスはまだやってきていない。パーティーの席は昼間の事件の話題で盛り上がるが、ここで初めて事件について知ったアレックスはなぜか動揺する。やがて、ビターソーンが来場する。食事の席でボブ・ディーとビターソーンはケリング家の宝石についていろいろと質問するが、キャロラインはこたえようとしない。

 セーラは納骨堂で見た煉瓦の壁の、煉瓦の色に見覚えがあった。キャロラインとアレグザンダーが作った「秘密の花園」の壁がこれと同じ煉瓦で作られていたのである。セーラは事件が気になって、手がかりになりそうなことを調べてまわる。彼女には、これまでも気になってきたことがあった:
「アレグザンダーの父親つまりギルバート伯父は、ケリング一族の誰にも劣らぬ資産家だった。ということは相当な財産を意味する。それはキャロライン伯母の医療費は莫大なものであったであろうし、金にも昔ほどの価値はなく、最低限の費用しかかけないにも関わらず二つの地所の維持費もかさむ一方だ。とはいえ、不動産と宝石を別にしても、ギルバート伯父の遺産は大半が残っているはずである。
 にもかかわらず、結婚以来セーラと夫とその母親の3人は、一族の水準からいえばささやかな、セーラ自身の相続した財産の利子で食べている。それが事実なのはわかっていた。アレグザンダーが毎年、利子収入、支出、そして信託財産の残高が全て記録された明細書を見せるといってきかないのだ。
 なぜアレグザンダーの金でなく自分の金で生活しているのか、セーラは未だに完全には理解していない。父親の遺書がアレグザンダーをセーラの保護者と定めている以上、それでよいのであり、セーラの不利になることを夫がするはずがないと思ってきた。それに夫婦なのだから、わかち合うのは正しい。だが本当にいいことなのだろうか? この守銭奴めいた傾向が何か奥深い病気の症状であることに、セーラとしては気づくべきではなかったのか?」(121-122ページ)

 納骨堂から出てきた死骸と、セーラの一家の切りつめた生活の間には探り出すのが恐ろしいような関係が潜んでおり、ある人物の悪意がセーラの一家とセーラとをしばりつけているのである。アレグザンダーは名門の出身で、名門高校・大学を出て、いろいろなスキルを身につけており、優しく、几帳面であるが、事態を打開できないのにはそれなりの理由があることが分かっていく。

 作者シャーロット・マクラウドはカナダ生まれでアメリカで活躍した女流作家であるが、アレグザンダーを始め、名門の出身であることを笠に着て威張り散らすが、現実的な問題解決にかかわるのは避けたがるドルフや、一族の大半とケンカ別れをしている独身の遊び人である叔父のジェレミー(ジェム)などの男性たちの性格が生き生きと描かれているのはなかなかのものである。そういう中で育ってきたので、ヒロインのセーラは父親がホーム・スクーリングで学校に通わせずに育て、一族の中の人間としか付き合わせなかったにもかかわらず、勇気があり、世の中にも積極的に立ち向かおうとする。それに一族の結束の固さもいざとなれば彼女を後押しする(かもしれない…)。

 2つの問題がどのように結びつくかの謎が明らかにされるまでは、ある事件の実行者が分かっても、その背後にさらにそれを指示した人物がいる…というふうに事態は二転、三転する。その展開が、人物描写の詳しさと相まって、読み応えがある。
 1979年に書かれて、日本では1989年に翻訳が刊行されたこの作品は、その後シリーズ化され、大学教授ピーター・シャンディが活躍する作品シリーズとともにマクラウドの代表作となった。マクラウドの作品はユーモアにあふれたコージーなものが多いといわれるが、この『納骨堂の奥に』は名門一族のどろどろとした内幕を背景に、サスペンス感に富んだ展開となっている。マクラウドの作品ではすでに『おかしな遺産』(創元推理文庫)を読んでいて、これはシリーズの最後から2番目の作品だそうであるが、『おかしな遺産』の解説を書いた大矢博子さんによるとシリーズには個性的で魅力的な登場人物が数多く登場し、『納骨堂の奥に』と『おかしいな遺産』だけではその全貌はわからないそうであり、それらの登場人物がどのように描かれているのか、読んでみたいと思う。すでに刊行されたけれども、現在は書店に並んでいないシリーズの他の作品が再び読まれるようになることを期待したい。

 
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