『けだもの組合』、『マルクス捕物帖』――マルクス兄弟の映画2本

9月7日(月)曇り、時々雨

 8月8日から9月11日までの予定でシネマヴェーラ渋谷で特集上映されている「映画史上の名作13」は、サイレント時代の作品を含めて喜劇が多く含まれている所に特徴がある。もっとも、そう書いたけれども、私がこのプログラムの中で見た映画は『アパッチ砦』(Fort Apache, 1946)、『マルクス捕物帖』(A Night in Casablanca, 1946)、『上海から来た女』(The Lady from Shanghai, 1947)、『三十九夜』(The 39 Steps, 1935)、『三つ数えろ』(The Big Sleep, 1946) 、『けだもの組合』(Animal Crackers, 1930)ということで、見た6編のうち喜劇はマルクス兄弟が出演する2編だけである。

 トーキー初期にその奇天烈極まりない芸で活躍したグラウチョ、ハーポ、チコの3兄弟の映画には興味があり、この映画館の名作特集が、マルクス兄弟の映画をかなり熱心に取り上げているおかげで、以前にも『オペラは踊る』(A Night at the Opera, 1935)と『マルクス兄弟デパート騒動』(The Big Store, 1941)を見ている。これらのほかに、テレビで『マルクスの二丁拳銃」(Go West, 1940)を見ている。

 マルクス兄弟は、年齢的にはサイレント喜劇の全盛時代に活躍したチャップリンとおなじくらい、キートンやロイドに比べるとむしろ年長なのだが、グラウチョのおしゃべり、ハーポのハープ、チコが一本指で弾くピアノという特技がトーキー時代になってやっとその効果を発揮しはじめたのだといわれる。『けだもの組合』で見るかぎり、グラウチョのダンスはなかなかのものであり、映画の中では口が利けないという設定になっているハーポのパントマイムも売り物の一つではあるのだが、それだけではサイレント映画時代には頭角を現せなかったということらしい。彼らの最初のヒット作『ココナッツ』(The Coconuts, 1930)が製作されたのは世界大恐慌の起きた1929年の翌年であり、彼らの狂騒的な持ち味が、不況の中で行き先を見いだせずに苦しんでいた庶民の心情に大いに訴え、大ヒットとなったという。

 裕福な未亡人で、社交界の花形であるリッテンハウス夫人(マーガレット・デュモン)の邸ではパーティーが開かれようとしている。主賓はアフリカから戻ってきたばかりの探検家ジェフリー・スポールディング大尉(グラウチョ)で、彼のためにヨーロッパから買い寄せた名画が展示されることになる。この絵が展示されれば持ち主であるリッテンハウス夫人は社交シーズン中、話題の中心となるだろうと嫉妬した客の母娘が作品をすり替えることを計画する。さらにリッテンハウス夫人の娘アラベラ(リリアン・ロス)はこの機会に無名画家である彼女の恋人の腕を認めさせようとこちらはこちらですり替えを計画する。

 パーティーにはスポールディング大尉のほかに、イタリア人音楽家のエマヌエル・ラヴェッリ(チコ)、得体のしれない教授(ハーポ)が参加している。スポールディングが本当にアフリカに行ったかどうか、彼の体験談を聞く限りあやしいものであるし、教授は下着姿で運動をしたり、気に入った女性を追いかけ回したりするという混乱の中で、絵がすり替えられ、スポールディングが今度は探偵役になって犯人捜しを始める。

 女性を追いかけ回したり、コートからナイフとフォークを何本も出したり…というハーポの動き、特に眠り薬を噴霧器に詰めて、出演者を片っ端から眠らせていく場面が面白い。もちろん、ハープも演奏するし、チコのピアノの腕前も披露される。そういう個人技に加えて、財産や権力を笑い飛ばすような不羈奔放な物語の展開が、不況下の庶民の心を動かしたのであろう。

 『マルクス捕物帖』はカサブランカを舞台に物語が展開し、実際名作『カサブランカ』によく似た場面があるため、あわや訴訟沙汰になりかけたという。既に1度、「日記抄 8月20日~26日」で取り上げているが、あらためて、あらすじを紹介すると:ホテルの支配人が続けて急死する。実はこのホテルにはナチスの残党の財宝が隠されていて、その1人がホテルの支配人になって財宝を持ちだそうとして、支配人を殺してきたのだが、今回はなぜか砂漠の中で怪しげなホテルの支配人だった男(グラウチョ)が支配人になってしまう。ホテルの客にたかって生計を立てている2人組(チコとハーポ)は、ナチスの残党がホテルの支配人の命を狙っていることに気付く。身辺の危機を感じた悪人一味は、国外逃亡を図り、支配人と2人組、そして事件に巻き込まれたフランス軍の将校とその恋人は、彼らを追いかけ、脱出を食い止めようとする…。

 作品の初めの方で支配人が毒殺されたため、警察官たちが緊急に捜査を始める。ホテルの近くに怪しげな男(ハーポ)がいて、ある建物に寄りかかっている。「おまえはこの建物を支えてでもいるのか?」という問いにうなずく男。そんなことがあるものかと彼を連行し、男が建物から手を離したとたんに建物は崩れる――小林信彦さんが熱をこめて何度も語っている有名な場面。あるいは終わりの方で悪人一味が逃げ出そうと荷造りをしている部屋に忍び込んで邪魔を繰り返す場面、さらには飛行場での追跡の場面など…スラップスティック喜劇の楽しさを堪能させる場面がある。それにしてもこの当時、兄弟で最年長のチコは59歳、他の兄弟も50代後半のはずで、よく体が動くねえと感心させられる。

 マルクス兄弟の作品の面白さは、個人個人の芸の確かさ、それぞれの体の動きもあるのだけれども、とくにハーポによって体現されているアナーキーな奔放さの魅力でもあると思う。それは、世界恐慌のような歴史的な事件の産物かもしれないが、時代を越えて生き延びるだけの訴えをもっているのである。

 追記:『上海から来た女』は原作も購入したので、原作を読み次第取り上げるつもりである。『アパッチ砦』、『三十九夜』、『三つ数えろ』について、それぞれ余韻を温めながら、いろいろと細かいことを調べているところであり、さて、どうなるか。
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