椎名誠『おれたちを笑うな! わしらは怪しい雑魚釣り隊』

8月16日(日)晴れ後曇り後雨、一時強く降る

 椎名誠『おれたちを笑うな! わしらは怪しい雑魚釣り隊』(小学館文庫)を読み終える。2013年6月に小学館から単行本として刊行された内容に加筆・修正を加えて文庫本化したものである。なお、2013年9月5日の当ブログで、同じ著者の『あやしい探検隊 済州島乱入』とともに単行本として刊行されたこの書物の書評を掲載している。したがって取り上げるのは2度目だが、今回は単独で論じることになる。

 椎名さん率いる<雑魚釣り隊>の行状録第4作。もともと関東近辺の釣り場を取り上げる専門誌である『つり丸』に連載されていたのが、この本の終わり近くに記されているように、『週刊ポスト』に連載の場を移した。長年、世界各地で「探検」を展開し、その顛末を面白おかしくつづる「あやしい探検隊」シリーズを書いてきた椎名さんの、釣りに特化した連載ものであり、その目的を聞いて馳せ参じてくる隊員の個性と行状が描きだされている。もともと雑魚どころか、便座カバーとか破れ傘などどうしてこんなものが釣れるのかというようなものが釣り上げられて、釣りの専門雑誌の連載ものとしては異色すぎる内容が書き連ねられていた。その後、次第に隊の水準も上がり、メンバーにも釣りの名手が増えたとはいうものの、隊の釣果と隊員たちの言動とは乱高下が著しい。兵庫県では魚は取れないなどという信じがたい暴言が飛び出す(嘘だと思ったら、45ページをご覧ください)。

 釣りを愛した文学者というと、幸田露伴、井伏鱒二、開高健などという名が思い浮かぶ。それぞれの個性の違いはあっても、悠揚迫らぬ風格を感じさせるところがある。椎名さんはというと、悠揚迫らぬというよりも、直接行動的、雑魚釣り隊のメンバーでもある西澤亨さんが書いているように、「本来、釣りの人ではない。突き・手掴みの人なのだ」(370ページ)。そして、その行動は個人で、秘密の釣り場を探すというよりも、集団的で、にぎやかに展開される。

 『哀愁の町に霧が降るのだ』の場末のアパートでの共同生活や『本の雑誌』の創刊に至る過程など、椎名さんには独特の組織論が付きまとっているように思われる。それは自分自身の趣味やわがままさを徹頭徹尾前面に出して、自然発生性を強調するというもので、目的意識性を前面に出して、組織のために自分のわがままを殺すというような組織論と正反対のものである。したがって、ある程度の支持者、共感者は生み出すが、それほど大きくならない代わりに、あまりほかの人に迷惑を掛けることもないし、参加者の人間性を傷つけることもない。たとえ、新入会員に「ドレイ(≒奴隷」という使い走りの待遇を与えるのが恒例だとしてもである。

 雑魚釣り隊が主に活躍するのは関東近辺、とくに三浦半島で、釣りの趣味はないが、横浜で育った私にはなじみ深い場所が多く取り上げられていて、身近な感じで読める。そうかと思うと、韓国の済州島に出かけるというかなりの遠出もある。大漁で大いに活気づくこともあるし、全くの不漁のこともある(それでも宿舎では大漁の時と同じように飲んで騒いでいる)。

 2013年の9月の当ブログでも取り上げたのだが、「世の中にはいろんなことに興味を持つ人がいるもので、政治、経済、科学、宗教、野球、プロレス、カブトムシ、ギョーザ、将棋、囲碁、麻雀、バカラ、風呂、酒、めしとくるとそのあと女かニワトリか。この辺どちらを選ぶかでその人の個性や生い立ちが問題になりますな」(262ページ)という問いかけがあり、このように並べられても、当方としてはあまりはかばかしい答えを用意できないのが残念なところである。強いていえば、たんめん老人だからギョーザには興味があるというところだろうか。それでも椎名さんの本を愛読しているのが興味深いところではなかろうか。

 気になるのは、本の中に収められた写真で見る椎名さんの老け方である。日焼けで色の黒いのは相変わらずだが、頭髪がかなり白くなり、笑い方が柔和になってきた(普通ならいいことかもしれないが、この人の場合は心配である)。 それに最近では、雑魚釣り隊のメンバーが増えすぎて、その個性を描き分けにくくなっていると弱音を吐いているとも解説されている。どうも心配である。兵庫県では魚が取れないといった隊員は、その後食道がんでこの世を去り、雑魚釣り隊がその計画を変更して、弔い酒に酔うというくだりもある。多くの人、たぶん、ほとんどすべての人が、まだ、しばらく椎名さんの弔い酒は飲みたくないはずである。ほぼ同じ年齢の私としては、強くそう思う。
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