シャーロット・マクラウド『猫が死体を連れてきた』

5月1日(日)晴れ

 4月29日、シャーロット・マクラウド『猫が死体を連れてきた』(創元推理文庫)を読み終える。マサチューセッツ州バラクラヴァ郡(著者が巻頭で断っているように、現実にある州の架空の郡である)にあるバラクラヴァ農業大学の応用土壌学の教授であるピーター・シャンディの名探偵としての活躍を描くシリーズの『にぎやかな眠り』、『蹄鉄ころんだ』、『ヴァイキング、ヴァイキング』に続く第4作。原題はSomething the cat dragged in (猫が引きずり込んだ何ものか)で、「死体」とはいっていない。a catではなくthe catとなっていることで、この猫が誰かの飼い猫であることが分かる。物語の文脈に照らしてみると、「死体」を連れてきたわけではないのだが、読者に物語を分かりやすくするための工夫と考えて、目をつぶることにしよう。

 長年、一人暮らしを続け、通いの家政婦であるエリザベス(ベッツィ)・ローマックスに面倒を見てもらっていたシャンディ教授が、クリスマスのイルミネーションをめぐる騒動の中で、同僚で親友でもあるティム・エイムズの妻ジェマイマがこともあろうに、シャンディの家の中で死亡しているという事件が起こり、さらにいろいろな出来事があって、ティムの身の回りの世話にやってきたはずのヘレンという小柄でブロンドの女性と結ばれたのがシリーズ第1作の『にぎやかな眠り』であり、シャンディがこうしてヘレンと結ばれた後も、ベッツィはシャンディの家に通って家の掃除をはじめとするさまざまな仕事を続けていた。第2作『蹄鉄ころんだ』ではさしたる活躍を見せないが、第3作『ヴァイキング、ヴァイキング』では、郡内の古くから残っている家系の系譜についての知識と家政婦の仕事で仕入れた大量のゴシップを駆使して、シャンディの探偵活動に貢献した。その彼女の活躍ぶりに加えて、今回は、彼女の飼い猫であるエドモンドが題名通りの活躍をする。

 秋のある日、ミセス・ローマックスの飼い猫であるエドモンドが何か奇妙なものを銜えて戻ってくる。それが彼女の家の下宿人でバラクラヴァ農業大学の名誉教授であるアングレーのカツラであることを知った彼女は、教授のもとにそれを返しに出かける。しかし、彼は自分の部屋にいない。さらに探してみると、彼は博物館(になる予定のバラクラヴァ・ソサエティーのクラブハウス)の裏手で冷たくなっていた。事なかれ主義の警察署長オッタ-モールは事故死と断定、メルシェット医師もそれに同調するが、教授の部屋には誰かが押し入って、探し物をした痕跡がある。不審をぬぐいきれないミセス・ローマックスは、このところいくつかの難事件を解決して、名探偵としての評価が高まっているシャンディ―に自分の不審を詳しく伝える。さらに街の人気者である葬儀屋のハリー・グールソンも死体をめぐっては怪しい点があるという。

 アングレーも会員であったバラクラヴァ・ソサエティーは、他のクラブと違って入会条件がひどく厳しく、その一方でクラブハウスは荒れ果ててみすぼらしい。クラブの会員は、弁護士のヘンリー・ホッジャー、銀行家のヘンリー・パメル夫妻、石鹸成金のロット・ラット、元州議会議員のシル、何をしているのかわからないけれども金持の大男であるウィリアム・トゥワークスである。(実は他にもいる。) ホッジャーによると、アングレーは遺言書を残しており、その財産の3分の1をアングレー家の残された親族であるアロンゾ(ロンゾ)・ブルフィンチに譲ると書き記していたという。アングレーが残した遺産は約60万ドル、ロンゾには20万ドルの遺産が転がり込むことになる。オッタ-モールは彼こそ犯人にちがいないと意気込むが…。

 第4作ともなると、登場する顔ぶれにも変化があり、それぞれの役割も変化がみられるように思われる。シャンディ―の名探偵ぶりに変わりはないが、彼の影響を受けてか、ミセス・ローマックスは自分の知識をフル活用させて捜査に協力するし、ハリー・グールソンもなかなか鋭い推理を見せる。第3作で初登場した地元新聞の記者クロンカイトも自分の役割をはたす。依然として、頭の働きはよくないオッタ-モールでさえ、終盤になると、多数の部下が(臨時に)できたこともあって、見事な統率力を見せる。注意してよいことは、この作品がユーモアたっぷりの仕上がりを見せている一方で、シャーロック・ホームズ以来の素人>プロの警察という図式をきちんと守っていることである。それどころか、猫までもが名探偵ぶりを見せつけるのである。

 もう一つ注目されてよいのは、そのユーモアが小規模農家の利益を守り、さらに育ててゆくような教育を行うというバラクラヴァ農業大学の建学の理念と、巨大資本の陰謀との戦いという文脈で展開されていること、もう少し視野を広げると、この小説がレーガン大統領時代に発表されていることである。笑いを前面に出して入るが、その背後にレーガノミクスに対して批判的な著者の態度を読み取ることも、この小説について忘れてはならない事柄であろう。
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