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ジェイン・オースティン『高慢と偏見』(22)

12月8日(日)晴れ

 エリザベスがサー・ウィリアム・ルーカスとその娘マライアとともに、ケント州のハンズフォードの牧師館のコリンズ夫妻(コリンズ夫人シャーロットは、サー・ウィリアム・ルーカスの長女であり、この物語のヒロインであるエリザベスの親友である)のもとに到着した翌日、コリンズ氏の庇護者であるレディー・キャサリン・ド・バーグから晩餐への招待があった。コリンズ氏はこの招待が早々となされ、しかも晩餐への招待であったことにいたく感激して、そのことをほかの人々に吹聴した。そしてコリンズ氏はこの招待に応じる際の心得について入念に話して聞かせたのである。

 天気が良かったので、一同はレディー・キャサリン・ド・バーグの邸宅であるロウジングズ・パークの庭を半マイル(0.8キロ)ほど歩いて、屋敷に向かった。こういう訪問になれないマライアは緊張のあまりおびえた様子を見せ、サー・ウィリアム・ルーカスでさえ完全に平静な状態ではいられなかったようであるが、エリザベスは落ちついていた。レディー・キャサリンが地位と財産を持っているだけの人物であるならば、それほど恐れるような存在ではないと思ったからである。

 玄関広間(the entrance hall)に入り、召使たちに案内されて一同はレディー・キャサリンと令嬢とジェンキンソン夫人が座っている部屋に入った。「令夫人は大いに気さくなところを見せて椅子から立ち上がり、皆を迎えた。紹介の役目はミセズ・コリンズが引き受けることに夫婦相談の上で決まっていたので、皆の紹介はいたって簡潔かつ適切になされた。」(大島訳、281ページ) もしコリンズ氏が紹介していたら、紹介は必要以上に長引いていたであろう。

 サー・ウィリアムはセント・ジェイムズ宮殿に伺候した経験があるのに、豪勢な部屋の様子にすっかり圧倒されてしまい、かろうじて一礼しただけで、一言も発することなく席についた。マライアは茫然自失の体(てい)であったが、エリザベスは目の前の3人の婦人を冷静に観察することができた。
 レディー・キャサリンは背の高い、大柄な女性で、かつては綺麗だったろうと思われる、くっきりとした目鼻立ちをしていたが、口のきき方が高飛車で、尊大な性格の持主であることがすぐにわかった。エリザベスは、ウィッカムの発言を思い出し、レディ-・キャサリンが彼の言うとおりの人物であると思った。また、その表情や挙動がどことなくダーシー氏に似ていることにも気づいた。
 一方、令嬢の方は母親にまるで似ておらず、痩せて小柄で、病弱な感じで、目鼻立ちも目立ったところはなく、ほとんど口もきかなかった。ただ、ときどき、ジェンキンソン夫人に何か話しかけるだけであった。ジェンキンソン夫人は令嬢の話を聞き、その健康に気を遣うことに専念していた。

 晩餐はきわめて豪勢なものであったが、食卓の下座について主人役を務めることになったコリンズ氏はこの扱いに満足して、さもうれしそうにいそいそと皆に肉を切り分け、自分も食べ、褒め言葉を口にした。「どの料理もまず コリンズが褒め、次にサー・ウィリアムが褒めた。サー・ウィリアムも今では娘婿の云うことを何でも鸚鵡返し出来る程度には落ち着きを取り戻していた。こんな褒め方をされてレイディー・キャサリンはよくも我慢が出来るものだとエリザベスは不思議でならなかった。だが令夫人はどんな褒め過ぎの言葉にもご満悦の体で、特に食卓に出た料理がみなにとって大変珍しいものであることが判ると、いかにも嬉しそうににこにこしていた。食卓の会話はあまり弾まなかった。」(大島訳、283ページ) エリザベスは話の糸口があれば口をききたいと思っていたが、座っている場所も、会話の内容も、彼女が口を利く機会を与えるようなものではなかった。〔会話を楽しむタイプの性格であるエリザベスには、形式的な追従だけのやりとりが満足できなかったということである。〕

 「晩餐が済んで、婦人たちは客間へ戻ったが、レイディー・キャサリンの話を拝聴する以外に何もすることはなかった。令夫人は珈琲が出るまでのあいだ片時も口を休めず、どんなことにでも決めつけるような口調で意見を述べた。それは、日頃自分が何を云っても反対されることのないひとの物云いであった。」(大島訳、284ページ) シャーロットによる牧師館の家事について彼女は細かい助言を与えた。「エリザベスには、この貴婦人が、他人に指図する機会を与えてくれるものなら何一つ見逃さない人であることが判った。」(大島訳、同上)
 レディー・キャサリンはコリンズ夫人(シャーロット)との話の合間にときおりマライアとエリザベスにも話しかけ、特にエリザベスにいろいろと質問した。彼女はエリザベスがどのような成り行きでこの一座に入っているのかほとんど知らなかったが、エリザベスについては「たいへん淑やかで綺麗な娘さんだ(a very genteel, pretty kind of girl)」(大島訳、同上)と、コリンズ夫人にその印象を語った。この発言を、小尾訳では「たいそう礼儀正しい、きれいなお嬢様」(小尾訳、292ページ)と訳していて、大島訳と大差はないが、齋藤秀三郎の『英和中辞典』によるとgenteelは「(賤しき身乍ら)上品な、人柄好き、紳士(貴女)らしき」ということで、レディー・キャサリンがエリザベスを見下していることが読み取れる。

 レディー・キャサリンはエリザベスに向かって、姉妹は何人いるか、彼女よりも年上か年下か、姉妹の中に結婚しそうな人はいるか、姉妹たちは美人か、教育はどこで受けたか、父親はどんな馬車を持っているか、母親の旧姓は何というのかなどと質問をした。エリザベスはずいぶんと不躾な(原文はElizabeth felt all the impertinence of her questionsで、指図好きのレディー・キャサリンは本来ならば質問を差し控えるような立ち入った事柄にまで質問しているということである)ことを聞くものだと思いはしたが、冷静に答えていた。〔以上第2巻第6章=第29章の途中まで〕

 詳しく展開をたどる必要があるので、今回もあらすじは省略した。大島訳はladyをレイディー、mistressをミセズなど、英語の発音に忠実に移そうとしていることがお分かりいただけたかと思う。噂だけでご本人が姿を見せてこなかったレディー・キャサリン・ド・バーグが登場し、まだのこっている人物はいるが、主要登場人物はほぼ顔をそろえた。この後、レディー・キャサリンはエリザベスとその姉妹たちの教育をめぐってさらに質問をして、自分の意見を述べる。ペンギン・クラシックス叢書のヴィヴィアン・ジョーンズの注によると、その内容は当時(19世紀初頭)における女子教育をめぐる主な問題に触れるものだというので、次回、少し詳しく見ていくことにしようと思う。この物語に登場したビングリー姉妹は学校(seminary)で教育を受けているが、レディー・キャサリンは学校教育には賛成していないようである。そういうことを含めて、また、次回。
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ジェイン・オースティン『高慢と偏見』(21)

12月1日(日)曇り、午後になって晴れ間が広がる。

 1月、2月とロングボーンでは目立った出来事は起きず、エリザベスがシャーロットを訪問しに、ケント州のハンズフォードに出かけるという約束をした3月になった。エリザベスはシャーロットと結婚したコリンズ氏(もともとはエリザベスに求婚したのである)に対してあまりいい気持ちをもっていなかったが、シャーロットが自分に会いたがっていることが分かってきたので、この訪問を前向きに、また楽しみに思うようになっていた。それに母親との間はうまくいっていなかったし、妹3人とも話が合わなかったので、少し場所を変えて気分転換を図るのも悪くはないと思ったのである。さらに、ハンズフォードに向かう途中でロンドンの叔父の家によって、そこに滞在している姉のジェインに会うことを計画に加えた(ロングボーンのあるハートフォードシャーはロンドンの北、ケント州はロンドンの南東にあるので、そこに行くまでにはロンドンを通ることになるのである)。ただ、唯一の気がかりは、彼女が留守にすることで、父親が淋しがるに違いないということであった。父親は、エリザベスに必ず手紙をよこすように、筆不精な彼には珍しく、彼もまた手紙を書くからと約束したのであった。

 追いかける対象をエリザベスからミス・キングに乗り換えたウィッカムとの別れは友好的なものであった。彼はコリンズ氏の庇護者であるレディー・キャサリン・ド・バーグには注意するように念を押して、エリザベスへの配慮を見せた。そうしたウィッカムを、エリザベスは友人として好ましく思った。

 ウィッカムとあった翌日、エリザベスは娘に会いに出かけるサー・ウィリアム・ルーカス、姉に会いに出かけるマライア・ルーカスとともに馬車でロングボーンを出発した。エリザベスは2人の内容のないおしゃべりになやまされたが、ロングボーンと叔父の住むロンドンのグレイスチャーチ・ストリートの間は24マイルしか離れておらず、しかも早朝に出発したので、叔父の家には正午前に到着した。馬車がガードナー家(叔父の家)に近づくと、ジェインが2階から一行の到着の様子を見守っていることが分かった。そして一同が玄関に入ると、ジェインは階下まで降りて来て彼らを迎えた。エリザベスはジェインが元気そうな様子であることに安心した。幼い従弟妹たちを含めて和気あいあいと過ごした後、夜は劇場に出かけた。

 劇場でエリザベスは叔母から、ミス・ビングリーがジェインを訪問しに来たこと、ジェインがどうやら本気でミス・ビングリーとの交際をあきらめたことなどを知らされた。「それからガードナー夫人はエリザベスがウィッカムに振られたことを揶揄(からか)い、辛かったろうによくぞ我慢したと云って褒めた。」(大島訳、267ページ)
 それから2人の間で、「結婚の動機がお金目当てなのと思慮深いのと、どこが違」(大島訳、268ページ、between the mercenary and prudent motives)うのかをめぐって議論が交わされる(この小説の主題に関わる議論である)。
 エリザベスは、「結局のところ、愚かな男としか知り合いにはなれないってことなのね。」(大島訳、269ページ)と結論を述べるが、ガードナー夫人は「気をつけて、リジー、そういう物言いはいかにも失恋の響きがしてよ。」(同上)と注意を与える。
 ガードナー夫妻はその年の夏に、ちょっとした気晴らしの旅行を計画していて、その旅行にエリザベスを誘う。たぶん、湖水地方(the Lake District, イングランド北西部のCumbria州南部を中心とする美しい湖水と山岳からなる観光地)まで出かけることになるという。エリザベスは喜んで承知する。〔以上第2巻第4章=27章まで〕

 翌日、エリザベスはルーカス父娘とともにハンズフォードに旅立った。彼女にとってこの旅行は見るものすべてが新鮮で、面白かった。姉に対する心配がなくなったし、夏に予定される旅行のことを考えると、気分がうきうきしてくるのであった。〔ケント州には2回でかけたことがあり、特にカンタベリーまで汽車で旅行した時は、なかなか快適であった。〕
 馬車が街道を離れて、ハンズフォードに向かう狭い道に入ると、一行は牧師館をいつ見ることになるのかと期待しながら窓の外を眺めた。レディー・キャサリン・ド・バーグのロウジングズ・パークの広壮な庭園がつづき、なかなか牧師館にはたどりつかなかった。しかし、やっと、牧師館にたどりつき、コリンズ氏とシャーロットに迎えられた。シャーロットはエリザベスに心からの歓迎の様子を見せた。エリザベスは来てよかったと思った。その一方で、コリンズ氏の態度や物腰が、結婚しても変わっていないこともすぐにわかった。

 コリンズ氏は牧師館の中を案内した後、一行に牧師館の庭を見せて回った。庭は見事なものであったが、庭の向こうに見ることのできるロウジングズ・パークの庭の方が(当然のことながら)さらにりっぱであった。家に戻ってみると、シャーロットが家の中をきちんと整頓していることが見て取れた。「実際、ミスター・コリンズの存在さえ忘れられていれば、家の中はいたって居心地がよかった。シャーロットがそのような居心地の良さを明らかに楽しんでいるところを見ると、どうやらコリンズの存在はしばしば忘れられているに違いない、とエリザベスは思った。」(大島訳、274ページ)

 コリンズ氏は、一行が次の日曜日に教会でレディー・キャサリン・ド・バーグに会うことができるだろう、その際に一行の存在が彼女の目に留まって、滞在中に招待を受けることがあるだろうという。
 夜、寝室へ引き上げた後で、エリザベスはシャーロットが「見たところ、結構巧みに夫を操縦しているようだし、夫に対する忍耐もかなり腹が据わってい」(大島訳、275ページ)ると思った。そしてこの滞在中、どのようにして過ごすかについての思案をする。

 ところが、翌日の昼頃に、家じゅうが混乱に陥ったような騒ぎが起きた。エリザベスのところに、マライアが興奮した面持ちでやって来て、彼女を階下に引っ張ってゆく。食堂の窓から見ると、2人の婦人を乗せた馬車が見える。2人は馬車の窓越しにコリンズ夫妻と話をしていた。エリザベスはレディー・キャサリン・ド・バーグとその令嬢だと思ったが、ジェンキンソン夫人とミス・ド・バーグ(令嬢)の2人であった。エリザベスはミス・ド・バーグが小柄なうえに、見るからに病弱で気難しそうなので、彼女に対して失礼な態度をとった高慢なダーシーの伴侶にはぴったりだと、内心面白がって眺めていた。
 コリンズ氏は一行の全員がレディー・キャサリン・ド・バーグから食事に招かれたと伝え、これはエリザベスとマライアにとって幸運なことだといった。〔第2巻第5章=第28章〕

 舞台はケントに移り、物語は新たな展開を迎える。これまで噂の中の人物であったレディー・キャサリン・ド・バーグがいよいよ登場する。彼女がコリンズ氏の言うように「愛想のいい、謙遜なおかた」(大島訳、274ページ, all affability and condescention)であるのか、ウィッカムの言うように「実に尊大で自惚の強いひと」(大島訳、152ページ、an arrogant, conceited woman ただし、もとの小説でこれを言うのはエリザベスで、ウィッカムはその発言を肯定する形で発言している)であるのかは、その時にわかることである。〔コリンズが見なれない言葉を使っているのに対し、エリザベス→ウィッカムがありふれた言葉を使っているのが対照的である。〕
 もう一つ、注意していいのは、ヒロインであるエリザベスを囲んで、義理の叔母であるガードナー夫人、姉のジェイン、友人のシャーロットは分別をわきまえた女性、母親のベネット夫人、妹のキャサリンとリディアは分別のない女性という描きわけがされている。前者は相手の意見が自分とちがってもそれを聞き分けるのに対し、後者は自説を頑固に主張し続けるというのがいちばんのちがいとして描かれている。 
 今回は掲載量を考えて、前回までのあらすじ紹介を省きました。あらすじをお知りになりたい方は、前回の記事を御覧ください。

ジェイン・オースティン『高慢と偏見』(20)

11月24日(日)朝のうちは雨が残っていたが、その後は曇り空が続く。

 19世紀の初めのイングランド、ロンドンの北にあるハートフォードシャーのロングボーンの村の地主であるベネット氏にはジェイン、エリザベス(エライザ、リジー)、メアリ、キャサリン(キティー)、リディアという5人の娘がいた。この一族は男系相続の仕来りであったので、一家の財産は5人の娘ではなく、遠縁のコリンズ氏に相続されることになっていた。それで、娘たちのうちの1人でも、裕福な紳士に嫁いでくれることが、ベネット夫人の切なる願いであった。
 ロングボーンの近くのネザーフィールド・パークを北イングランド出身のビングリーという裕福な青年が借りることになり、近くのメリトンの町で開かれた舞踏会でジェインを見初める。ジェインもビングリーに好意以上の感情を持つ。一方、ビングリーの親友でそれ以上の富豪だというダーシーという青年は、ビングリーからエリザベスと踊るように勧められて、それほどの美人ではないといって断り、それを聞いていたエリザベスの気持ちを傷つける。高慢な男性(ダーシー)と、それによって彼に偏見を抱いた女性(エリザベス)がこの物語の主人公である。
 ダーシーの叔母であるレディー・キャサリン・ド・バーグの恩顧によってケントのハンズフォードの教区牧師となったコリンズ氏がロングボーンを訪問し、エリザベスに求婚する。しかし、尊大さと卑屈さとが入り混じったこの人物を好きになれないエリザベスは、その申し出を拒否し、コリンズ氏は、ベネット家の隣のルーカス家の長女シャーロットに今度は求婚して承諾を得る。
 順調に交際を続けていたはずのビングリーとジェインであったが、ある日突然、ビングリーはロンドンに移動する。一旦は、エリザベスのことを軽んじる発言をしたダーシーであるが、その後で次第に彼女の魅力にひかれ始める。一方、エリザベスは、メリトンの町に赴任してきたウィッカムという国民軍の士官と意気投合し、近づきになる。彼はダーシーを子どもものころから知っているという。ロンドンに住んでいるベネット夫人の弟のガードナー氏がその妻とともにロングボーンを訪問する。ガードナー夫人は、ジェインをロンドンの自宅に招待してしばらく滞在させる配慮を見せる。彼女はダービーシャーに住んでいたことがあり、その点でウィッカムと共通の話題を持っていた。(以上第2巻第2章=25章までのあらすじ)

 ガードナー夫人はエリザベスと2人きりになる機会を見つけると、彼女に向かって、ウィッカムは好青年かもしれないが、財産をもっていないことが問題で、あまり深入りしない方がいい相手であると忠告する。これに対し、エリザベスは早まった真似をするつもりはないから安心してほしいと答える。〔コリンズ氏は自分に財産があり、エリザベスにはないことを強調して結婚を迫ったが、エリザベスは彼の人間的な魅力の乏しさから求婚を断った。ウィッカムの場合は人間的な魅力に惹かれながらも、相手の財産のなさがブレーキとして働いているようである。〕
 「叔母はそれなら安心だと明言し、エリザベスは叔母の親切な忠告に感謝して、二人は別れた。――このような問題で忠告がなされて、恨まれずに済んだ、驚くべき稀有な一例である。」(大島訳、255ページ) この――以下の個所は、意味がとりにくい。原文はa wonderful instance of advice being given such a point, without being resented. となっていて、中野康司訳では、
「恋愛問題について忠告すると、たいてい言い争いになるものだが、これは大変珍しい例である。」(251ページ)、また小尾訳では
「この種の忠告をして、相手が腹を立てなかったという、これは稀有な例である。」(260ページ)
 三者ともに、wonderfulを「稀有な」とか、「珍しい」とか訳しているが、『齋藤英和中辞典』にあるように「感心な、見あげた」という意味が含まれているように思う。作者は、ガードナー夫人とエリザベスの双方の分別を貴重なものとして描いているのである。 

 ガードナー夫妻は、ジェインを連れてロンドンに戻り、それと入れ替わるように、コリンズ氏がシャーロットと結婚式を挙げるためにやって来た。結婚式の前日に、シャーロットはベネット家を訪問し、その際の母親の対応があまりに不躾なので、エリザベスはシャーロットの後を追って言葉を交わすことになった。その際に、シャーロットは、自分は結婚後しばらくハンズフォードを離れることはできないと思うので、訪ねてきてほしいという。訪問しても楽しいことはないと思ったものの、エリザベスはこの願いを断ることはできなかった。シャーロットによると、彼女の父(サー・ウィリアム・ルーカス)と妹のマライアが3月に訪問の予定なので、その時に同行してほしいというのである。

 コリンズ氏とシャーロットの結婚式が行われ、2人はケントへと旅立っていった。その後、シャーロットからエリザベスにこれまでと同じように規則正しく手紙が届き、エリザベスもそれにきちんきちんと返事を出したが、「手紙を出すたびに、あの楽しかった親密な心の交わりはもう終わったのだと思わずにはいられなかった。」(大島訳、256ページ) シャーロットがどんな生活を送り、何を考えているのかは、自分の目で確かめないとわからないと、エリザベスは思った。

 一方、ジェインからは無事ロンドンについたという手紙があった。エリザベスは次の手紙では、姉がビングリー兄妹について何か書いてくるだろうと期待をもって第二信を待っていた。しかし、ジェインの次の手紙には、ロンドンに到着して2週間になるが、キャロライン(ビングリーの妹)にはまだ会っていないと記されていた。それで、機会を見つけて、ビングリーの一家が寄寓しているグロウヴナー・ストリートを訪問してみるつもりだと記されていた。
 ガードナー夫妻が住んでいるのはシティーのグレイスチャーチ・ストリートであり、グロウヴナー・ストリートはウェスト・エンドにある。鈴木博之『ロンドン』(ちくま新書)によれば(別によらなくてもいいが)、パリや東京と同様にロンドンも東の方が下町で、西の方がお屋敷町である(まあ、そうはっきりと分かれているわけではないが…)。そのことは、この小説でも、ジェインには外面よくしているけれども、底意地が悪そうなキャロラインが、ダーシーに向かっていったことでもある。

 ジェインはその次の手紙で、キャロラインには会ったが、彼女がロンドンに来ているとは知らなかったといわれる。ビングリーはダーシーと一緒にいることが多いので、姉妹でさえも会うことはあまりないのだという。
 何度か、ビングリーの姉妹を訪問しているうちに、さすがのジェインも彼女たちが口実を設けては、彼女から遠ざかろうとしていることに気づく。そのことを知らされて、エリザベスはほっとしただけでなく、ビングリー(のジェインに対する愛情)を信じる気持ちも消え去ったように思った。

 ガードナー夫人からは、エリザベスとウィッカムのその後の様子をたずねる手紙が届いたが、ウィッカムは祖父の1万ポンドの遺産を相続したミス・キングに注目の対象をを移したようなので、心配は無用だと書き送った。〔ミス・キングは、第3章でベネット夫人がビングリーの踊った相手を列挙する中にすでに登場している。①シャーロット・ルーカス、②ジェイン、③ミス・キング、④マライア・ルーカス、⑤ジェイン、⑥エリザベス…ということである。ビングリーがそつのない社交家であることが、この列挙によってさりげなく示されている。〕 ウィッカムに対して気も狂わんばかりの恋をしなかったのは、今になってみると幸いであったと彼女は書き送った。キティーとリディアには、美男子であっても、他の男性と同様に食べる手だてを講じなければならないということがまだわかっていないとも書き添えたのである。〔以上、第2巻第3章=26章まで〕

 次回、エリザベスはシャーロットをたずねてケントへと旅立つ。その前に、ロンドンでジェインと会うのを忘れない。そしてケントでは思いがけない展開が待っている…。 
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ジェイン・オースティン『高慢と偏見』(19)

11月17日(日)晴れ

 前回(11月10日掲載の18回)で、第1巻23章が幕を閉じて3巻からなるこの小説の第1巻が終り、物語は第2巻に入る。しかし、時間の流れも舞台も大きく変化するわけではない。このため、多くの翻訳では第2巻第1章などとせずに、そのまま第24章としていることが多いようである。
 ロンドンの北・ハー(ト)フォードシャーにあるロングボーンの地主であるベネット氏にはジェイン、エリザベス(エライザ、リジー)、メアリー、キャサリン(キティー)、リディアの5人の娘があった。ベネット家では相続方式として限嗣相続、それも男系を採用していたので、一家の土地や財産は遠縁にあたるコリンズという人物が継承することになっていた。それで、娘たちのうちの1人でも、裕福な紳士に嫁ぐことが、ベネット夫人の念願であった。
 ロングボーンの近くのネザーランドの邸を借りたビングリーという青年紳士は、ジェインに思いを寄せ、教区牧師の地位を得て生活が安定したコリンズはベネット家との和解のしるしとして、エリザベスを妻としようと考え、彼女に求婚するが、尊大さと卑屈さが入り混じったコリンズの性格を好きになれないエリザベスはこの申し出を断る。コリンズはなんと、ベネット家の隣に住むルーカス家の長女であるシャーロットに求婚し、シャーロットはそれを受け入れる。ベネット家の人々は様々な反応を示すが、自分の家と財産とがコリンズとシャーロットに相続されることを考えて、ベネット夫人は気が休まることがなかった。またビングリーの一家はベネット家に挨拶を告げずに、ロンドンへと去っていった。ビングリーの友人で、彼以上の大富豪だというダーシーは、舞踏会でダーシ―は、ある舞踏会でエリザベスと最悪の出会いをしたことから、彼女は彼に偏見を持ち続けているが、ダーシーの方では瞳が美しく、茶目っ気のあるこの女性に魅力を感じ始めている。それに気づかないエリザベスは、ダーシーの幼いころからの知り合いだというウィッカムという国民軍の士官と知り合い、仲良くなりはじめている。(以上第1巻23章までのあらすじ)

 ジェインが長いこと待ちわびていたミス・ビングリー(キャロライン、ビングリーの妹)からの手紙が届き、ビングリー一家がこの冬(社交シーズンである)はロンドンに滞在することが記されていた。それにあてつけがましく、ビングリーとダーシーがいよいよ仲良くなり、ビングリーはダーシーの家に泊まっているうえに、彼の妹とビングリー姉妹も親交を深めているので、ビングリーとミス・ダーシーとの結婚は大いにありうることだ、ミス・ダーシーのような素晴らしい女性はほかにいないなどと書かれていた。ミス・ビングリーはダーシーとの結婚を望んでいるので、まず兄をミス・ダーシーと結婚させようと策をめぐらしている様子である。
 ジェインはこの手紙を読んで、自分のビングリーに対する思いは片思いだったと思いこもうとするが、エリザベスにはビングリーが本当に好きなのはジェインだとしか思えなかった。ビングリーは周囲の人々に操られているだけなのだと思ったのである。そういってジェインを慰めようとしたが、ジェインの心はなかなか晴れなかった。無神経なベネット夫人はビングリーのことでたびたび愚痴をこぼし、それがジェインの心をいっそう傷つけていることに気づかなかった。

 エリザベスは姉が誰のことも悪く受け取ろうとせずに、みないい人だと受け取りたがる、天使のような(really angelic)人だと初めて分かったと姉に打ち明ける。彼女は姉に比べて物事をはっきり見るので、世の中に善人は少ないと考えている、長所も分別も見かけだけでは信頼できない、最近もそういう見掛け倒しの例に2つほどであったと付け加える。特にシャーロットの結婚の一件はわけがわからないという。
 それに対しジェインは、シャーロットにもコリンズにもそれなりの長所があることを説いて、エリザベスを納得させようとするが、エリザベスは「ミスター・コリンズは自惚の強い、もったいぶった、度量の狭い、愚かな男よ」(大島訳、239ページ)と反論する。そんな男性と結婚する女性の気持ちが知れないというのである。
 ジェインは、エリザベスの二人に対する言い方は厳しすぎるとたしなめる。「女自身の虚栄心」(大島訳、240ページ、原文、
It is very often not but own vanity that deceives us. Penguin Modern Classics版、134ページ、わたしたちを騙すのが私たち自身の虚栄心だってことはよくあることだわ)と、あくまで謙虚である。
 エリザベスは負けていない。「男が女にそう思わせるのよ。」ビングリーを陰で操っている人々が、2人の仲を裂かせようとしているのだと主張し続ける。 
 
 ベネット夫人は真相を深く考えようとせず、ビングリーがロンドンに去って戻ってこないことがな篤できない様子である。それに対しベネット氏はジェインはどうやら失恋したらしいが、おまえはどうなのかとエリザベスを揶揄ったりする。ウィッカムと恋仲になって振られてみてはどうかというが、エリザベスはあまり本気になった様子を見せない。〔それにしても、いくら自分のお気に入りの娘だからといって、こういう皮肉を言うのは、いい趣味とは思われない。〕
 ウィッカムはベネット家に出入りしては、ダーシーの悪口を言い、ベネット家の人々はそれに付き合ってダーシーの悪口を言ったが、ジェインだけは何かダーシーの方にも事情があるのだと考えて、その仲間には加わらなかった。(以上第2巻第1章=24章)

 コリンズは結婚の準備と整えると、自分の教区のあるケントへと旅立っていった。
 2日後の月曜ぎ、ベネット夫人の弟のガードナー氏がベネット家を訪問した。
 ガーディナー氏はロンドンのシティに住む裕福な商人で、ベネット夫人よりも段違いにすぐれた人物であった。またその夫人も聡明で、気品があり、姪たち、とくにジェインとエリザベスから慕われていた。
 ベネット夫人は、義理の妹に向かってここを先途と、彼女の日ごろの鬱憤をぶちまけた。ジェインの方は仕方ないにしても、エリザベスがこんな良縁を断ったのは許せないというのである。ガーディナー夫人はジェインとエリザベスからの手紙でおおよそのことを知っていたので、この話題には深入りを避けたが、エリザベスと2人になると、ジェインの恋がうまく行かなかったのを残念がる。そして気分転換のためにジェインをロンドンの自分の家に連れていくことを提案する。ジェインはロンドンへ行くことを承諾する。

 ガーディナー夫妻の滞在中、ベネット家にもしばしば近くのメリトンの町に駐在している部隊の士官たちが客として呼ばれてきたが、その席でエリザベスとウィッカムとが親しげに話している様子にガーディナー夫人は気づいた。また、ガーディナー夫人は結婚前にダービーシャーに住んでいたことがあり、ウィッカムがこの州の出身であったこと、ダーシーの父親と知り合いであったことなどで大いに話が弾んだが、しかし彼女はなにかこの人物に警戒すべきものを感じていた。(以上第2巻第2章=25章まで)
 

ジェイン・オースティン『高慢と偏見』(18)

11月10日(日)晴れ、温暖

 19世紀の初めのイングランド、ロンドンの北に位置するハートフォードシャーのロングボーンという村の地主ベネット氏にはジェイン、エリザベス(エライザ、リジー)、メアリ、キャサリン(キティー)、リディアという5人の娘があった。この家系の決まりで、財産は男系相続であったので、ベネット氏の財産は5人姉妹には継承されず、そのため5人のうち1人だけでも裕福な紳士に嫁ぐことがベネット夫人の念願であった。
 ジェインはロングボーンの近くのネザーランドの邸宅を借りたビングリーという北部出身の紳士と親しくなり、その姉妹とも交流するようになる。ビングリーの親友だというダーシーという紳士は、ビングリー以上の大富豪だという噂であるが、その高慢な態度に反感を抱く人々もいる。エリザベスは舞踏会で彼が自分に対し失礼な発言をしたのを聞いていて、偏見を持ち続けている。しかし、ダーシーの方ではエリザベスの美しい瞳と茶目っ気のある態度に次第に関心を寄せるようになっている。
 ロングボーンの財産の相続人であるコリンズという青年が、ケントの大地主であるレディー・キャサリン・ド・バーグの恩顧を受けて教区牧師の地位を得たのを機会に、ベネット一家と和解したいとロングボーンを訪問する。安定した地位を得た彼は、美人で気立てがいいという評判のベネット家の5人姉妹のうちの1人と結婚して、事態を収めたいと考えている。そして、エリザベスに白羽の矢を立てる。だが、エリザベスは、この尊大さと卑屈さが入り混じり、退屈な男性を好きになれない。
 エリザベスはロングボーンの近くのメリトンの町で、この地に駐屯する国民軍の将校であるウィッカムという青年に出会い、好意を持つ。彼はダーシーと子どものころからの知り合いで、牧師になりたいと思っていたが、ダーシーの干渉でその地位を得られなかったのだという。ビングリーの借りているネザーランドの邸で開かれた舞踏会でエリザベスはウィッカムと踊るところをダーシーに見せつけようと思っていたのだが、なぜかその会にウィッカムは現れず、最初の2回分をコリンズと踊ることになる。そして、ぼんやりしていたところ、ダーシーから踊ることを申し込まれ、2人で踊ることになったが、彼の前に立たされてみると、「何やら自分が偉くなったような気がして驚いた」(大島訳、164ページ)。ダーシーのエリザベスへの気持ちと、彼女がウィッカムに惹かれていることを知っているミス・ダーシー(キャロライン)は、ウィッカムの父はダーシーの執事だったのだと彼女に「忠告」する。夕食の席でベネット夫人はルーカス夫人に向かい、自分の上の娘2人が近々結婚することになりそうだと大声で自慢し、さらにダーシーに対して失礼な態度をとり、エリザベスをひやひやさせる。
 コリンズがエリザベスに求婚し、エリザベスは断るが、さらに執拗に迫ってくるコリンズの態度に辟易する。そして父親の助力を借りて、やっとコリンズに求婚を断念させる。メリトンの町でウィッカムにあったエリザベスは、彼が自制してダーシーと会わなかったという言い訳を聞き、ますます彼に好意を持つ。一方、ジェイン宛にミス・ビングリーから手紙が届き、ビングリー家がロンドンに移ったと知らされる。エリザベスの気持ちが自分に向かってこないことを悟ったコリンズは、ベネット家の隣のルーカス家の長女であるシャーロットに興味を移し、そして彼女に求婚して、成功する。親友であるシャーロットから、結婚の話を聞いたエリザベスは驚く。(以上22章まで)

 シャーロットからコリンズと結婚すると聞かされたエリザベスは、家族のものにどのようにしてその話をするか考えていたが、それよりも早く、シャーロットの父であるルーカス卿がベネット家を訪問した。娘に頼まれて彼女とコリンズとの結婚について報告するためである。ベネット夫人と妹たちは耳を疑い、そんなことは起こりえないと言い張ったので、エリザベスはやむなく、シャーロット本人からそのことは聞いたといって、お祝いの言葉を述べ、ジェインもすぐにそれに加わった。
 ようやく事態を呑みこんだベネット夫人は大いに腹を立て、エリザベスとは1週間ほど口を利こうとせず、ルーカス夫妻に礼儀正しく接することができるようになるのに1か月ほどかかり、シャーロットをどうにか許せるようになるのには数か月を要した。

 これに比べると、ベネット氏の方は落ちついた態度でこの知らせを聞いた。そしてシャーロットは頭のいい女性だと思っていたが、自分の妻と同じくらい馬鹿で、エリザベスよりもはるかに馬鹿だということが分かったと皮肉な感想を述べた。〔ベネット氏は地主(上流階級に属する、といってもその最底辺に近い方にいる)、事務弁護士(中流階級に属する)の娘である現在の夫人とその美貌に惹かれて結婚したのだが、その結果は決して幸福なものではなかった(まったく不幸なものでもなかった)ということが、事態の推移と関係している。〕
 ジェインはこの結婚を喜び、二人の幸福を願い、エリザベスがそれは無理な話だといっても聞く耳を持たなかった〔他人の悪い面、否定的な面に目を向けないのが、ジェインの特徴で、オースティンはそのことをあまり肯定的に見ていないが、それはそれでいいことではないかと、私は思う〕。
 キャサリンとリディアはコリンズが牧師であり、軍人ではないので、噂話のタネ以上には、この婚約を受け取ることができなかった。〔メアリーのことが書かれていないのには、作者の計算があるのだろうか?〕
 「ルーカス令夫人は娘に良縁を得たことが嬉しくて、その喜びをベネット夫人に見せつけてお返しが出来ることに勝利感を覚えずにはいられなかった。」(大島訳、226ページ) それでいつも以上にベネット家を訪問することになり、そのたびにベネット夫人から嫌味を言われるのだが、そうされても一向に訪問をやめようとしないくらいに有頂天になっていた。
 エリザベスとシャーロットの間には、一種の気まずさが漂い、これまでのように親友同士として接することが難しくなった。エリザベスはその分、姉のジェインを力強い身内と感じるようになったのだが、そのジェインはビングリーの去就に心を悩ませていた。ジェインがミス・ビングリーに宛てて出した手紙に一向に返事が届かなかったからである。

 コリンズからベネット氏宛に礼状が届き、結婚についてド・バーグ令夫人の賛同を得たので、できるだけ早く結婚式を挙げるつもりで、そのためにまた訪問することになると知らせてきた。ベネット夫人はコリンズの再訪に対して不機嫌な態度をとり、ビングリーの話題が出るとき以外は、その態度をとり続けたのである。ビングリーについてメリトンの町では、この冬にはもうネザーフィールドには戻らないといううわさが飛び交っていたが、ベネット夫人としてはその噂は信じたくないものであった。この噂には、エリザベスも心を痛めていた。彼女としてみれば、ビングリーのジェインに対する気持ちを疑いたくはないのだが、彼を取り巻く環境が彼の足をハートフォードシャーへと向けさせないのではないかと思ったのである。
 しかし、それ以上に心を痛めていたのは、不安定な状況に置かれているジェインであった。彼女はそういう自分の苦しい気持ちを他人に見せようとしなかったが、困ったことに母親がやたらとビングリーのことを話題にするので、それによって余計に心を痛めたのである。それでもなんとか、切り抜けたのはジェインの温厚な性質(steady mildness)の賜物であった。

 結婚式を挙げるためにコリンズがまたロングボーンに戻ってきたが、彼がシャーロットと睦まじそうに話しているのを見るたびに、ベネット夫人は自分をこの屋敷から追い出そうとする相談をしているのではないかと邪推する始末であった。第23章は、次のようなベネット夫妻の会話で終わる。
"If it was not for the entail I should not mind of it."
"What should not you mind?"
"I should not mind any thing at all."
"Let us be thankful that you are preserved from a state of such insensibility."
(Penguin Classics Edition, p.128)
「限嗣相続なんてものがなければ、私も何とも思わないんだけれど。」
「何を何とも思わないって?」
「何もかもまったく何とも思いません。」
「それならお前は限嗣相続のおかげでそんな認知不全症に陥らなくてすんでいるわけだから、感謝しなくては。」
(大島訳、231ページ)

 ここで「限嗣相続」と訳されているentailは権利者の直系卑属のみに継承される相続の形式であり、ベネット家の場合、そのなかの男系相続(tale male)を採用しているから、コリンズが相続することになるのである〔この件については、以前にも書いた。大島訳の121ページの注はこの点では不十分である。〕 だから「限嗣相続」だけを問題にするのは十分な理解とは言えない。これはベネット夫人の理解不十分を描いた箇所なのだが、ひょっとすると、オースティン自身が十分に理解していなかった可能性もある。
 こうして、ベネット夫人のいらだちと、不安定な状況に置かれたジェインの心労を描いて、この小説の第1巻は終わる。コリンズはシャーロットと結婚することになったが、ジェインの恋の行方はどうなるのか、エリザベスはどのような運命をたどるのか、さらに妹たち3人の動きも気になるところで、物語は第2巻へと続いていくのである。

 シャーロットは27歳だという設定だから、コリンズよりも年長のはずである。一方、エリザベスは、作中でも年齢を明かそうとしないが、20歳だから、この2人が親友だというのはちょっと無理があるという気がしないでもない。とにかく、年齢の違いを反映して、結婚についての考え方が違うというのもうなずけるところである。それにしても、(姉のジェインほどではないにしても)美人のエリザベスに断られた後、不美人のシャーロットに求婚するというコリンズの態度は、焦っているとしか言いようがない。もっとも、就職が決まって有頂天になっているような場合には、そういうこともありがちなのかもしれない。何度か触れられてきたように、シャーロットは頭がいいので、それなりの計算をして、コリンズの求婚を受け入れたのであるが、心からコリンズを尊敬できるとは思っていないところが問題である。 
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