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ジェイン・オースティン『高慢と偏見』(44)

5月17日(日)晴れ、気温上昇

 ベネット家の住むロングボーン(架空の地名)一帯の中心的な町であるメリトン(架空の地名)に駐在していた義勇軍の連隊がブライトン(イングランド南東部の海岸に面したリゾート地で、18世紀の終りから19世紀の初めにかけて後にジョージⅣ世となる王太子が離宮を建てるなど、この地を愛したこともあり、当時の文化の中心の1つであった)に移動するのに伴い、義勇軍のフォースター大佐の夫人の招待でブライトンに赴いた末娘のリディアが、連隊の中尉であるウィッカムと駆け落ちをするという事件が起きた。しばらく行方の分からなかったリディアとウィッカムであったが、ベネット夫人の弟であるガードナー氏から、ウィッカムの失踪の原因となった賭博による多額の借金返済の見通しが付けば、2人を結婚させることができるとの連絡があった。ベネット氏は急いで2人の結婚に同意する手紙を書いたが、義弟に思わぬ負担を強いてしまったことを気に病むのだった。その一方で、5人の娘の誰か1人でもいいから、金持の紳士と結婚させることを夢見ていたベネット夫人は、お気に入りの末娘が結婚するという知らせに舞い上がり、それまで臥せっていた病の床から跳ね起きて、ウィッカムが借金に追われている身であることも気にせずに、2人の結婚式と新生活について夢想を繰り広げるのであった。 

 今回は、第3巻第8章(第50章)の後半を取り上げる。
 ベネット氏は、正餐の席でベネット夫人があれこれとしゃべるのを聞き、召使たちがいる間は黙っていたが、彼らが引き下がると、彼女には同意しないという自分の意見を述べはじめた。先ずロングボーンの近くに2人を住まわせるつもりはないし、この邸内に2人を迎え入れることはしないつもりだということ。さらに、ベネット氏が娘の結婚を祝福せず、結婚衣装に1銭も出そうとしないことをめぐっても夫妻の間で口論がつづいた。「ベネット夫人にしてみれば、娘がウィッカムと駈落して、結婚する2週間も前から同棲していたことよりも、娘が婚礼衣装も新調せずに結婚式に臨むことの方が、遥かに恥しいことだったのである」(大島訳、524ページ)。

 エリザベスはダービーシャーのラムトン(架空の地名)で、ダーシーに動顛のあまり妹についての心配事を話してしまったことを後悔していた。2人の結婚という形で駈落ち事件が解決することが分かっていたら、駆落ちという家族の秘密を打ち明けないほうがよかったと思ったのである。彼がこの事件のことを黙っていて、誰にも漏らさないだろうということは信じることができたが、その一方で、このようなスキャンダルを起こした妹をもつ姉と結婚しようとは思わないだろうとも考えたのである。そして、彼とは二度と会うことがないだろうと思う一方で、彼に会いたいという気持ちが募るのを押さえられなかった。

 「エリザベスは今になって、ミスター・ダーシーが気質的にも能力的にも自分にぴったり合った人だということが分り始めた。頭の働きも気性も、自分とは違っているが、自分の望みには充分叶っていそうであった。2人が結ばれていればどちらのためにもなったにちがいない。自分の気さくで陽気な性質によって、あの人の生真面目な性分は多少和らぎ、堅苦しい態度も少しは柔軟な、愛想のよいものになったかも知れない。そしてあの人の判断力と知識と幅広い世間智から、自分はそれ以上の大事な恩恵を受けたに違いない」(大島訳、526ページ。「気質的にも能力的にも」と訳されている個所は、原文ではin disposition and talents、「頭の働き」はunderstanding、気性はtemper、「気さくで陽気な性質」というのはher ease and liveliness、「判断力と知識と幅広い世間智」はhis judgment, information, and knowledge of the worldである。光文社古典新訳文庫の小尾訳では「性格といい、頭脳といい彼こそが自分にもっともふさわしいひとだということが、エリザベスにもようやくわかってきた。彼の知性も性格も、自分とは性質の違うものだが、自分の望みにすべて叶っていたと思う。これはふたりを引き立て合うむすびつきだったはずである。エリザベスの気どらず、活発なところは彼の心を和ませ、態度を改めさせていただろう。そして彼の判断力や該博な知識や人生経験などによって、エリザベスは多大な恩恵を受けていただろう」(小尾訳、下巻、186ページ)となっている)。〔正確さという点では大島訳の方に軍配が上がるが、読みやすさという点では小尾訳の方がまさると思う。〕

 彼女がようやく理想的な組み合わせだと信じることができるようになった結婚の可能性が、それとは全く異質なリディアとウィッカムとの縁組によって絶たれようとしているのだと彼女は思った。そして、一時的な情熱が、2人で自立して生計を立てていく見通しに勝って成立した妹たちの結婚生活がこの先どうなるのかを予測することはできないものの、永続的な幸福とは無縁なものになりそうだと思ったのである。

 ガードナー氏から、ベネット氏に宛てて折り返し返信があり、自分の金銭的な尽力をめぐる貸し借りについては気にしなくてもいいという文面が記され、それよりもウィッカムが今後どうすることになるかということの方が詳しく記されていた。
 結婚式が済み次第、ウィッカムは義勇軍ではなく正規軍の北部に駐屯している連隊に入り、連隊旗手(ensigncy)を務める話がまとまっているという。〔東南部にいたのでは悪い友だちとの縁が切れないということであろう。なお、ensigncyは歩兵連隊の最下級の士官で少尉second lieutenantということになるが、この時代にはまだsecond lieutenantという階級はなかったようである。〕 新しい環境をえれば、ウィッカムも気分を一新して生活態度も変えるのではないかというのである。彼がブライトンで作った借金についてはガードナー氏がフォースター氏に事情を説明して、返済の手はずを整えたので、メリトンで作った借金についての事情説明はベネット氏にお願いしたいとのことである。返済の手続きは、ハガーストン弁護士(事務弁護士)の手を煩わすことになっている〔原文には弁護士にあたる語はなく、大島さんが補って入れている。ガードナー氏(とベネット夫人)の姉の夫のフィリップス氏も事務弁護士なのだが、遠くの親戚よりも近くの他人ということであろうか〕。結婚式後、もしロングボーンから招待があれば、新婚夫婦は花嫁の実家を訪問することになるが、そうでなければすぐに北部に旅立つことになるだろう。リディアは両親に会っておきたいという気持ちが強いようである。

 ベネット氏と娘たち(とオースティンは書いているが、ジェインとエリザベスであろう)は、ウィッカムが義勇軍の連隊を離れることに賛成であったが、ベネット夫人はお気に入りのリディアが遠く離れたところに行ってしまうことに不満であった。彼女はフォースター大佐の夫人と仲が良かったし、義勇軍のなかには彼女と仲のいい士官たちが大勢いたというのである〔そういう環境から引き離したほうが、本人たちのためだということが、ベネット夫人には理解できない〕。 

 ベネット氏は、結婚式のあと実家を訪問したいというリディアの要求を受け入れるつもりはなかったが、世間体を考えれば、この結婚に両親が同意していることを示すためにも、訪問を認めた方がいいというジェインとエリザベスの説得に渋々応じることになった。とはいうものの、エリザベスは本心では、自分がかつて結婚の相手と考えたこともあるウィッカムと顔を合わせたくはなかった。

 こうして第3巻第8章は終り、第9章では結婚したリディアとウィッカムがベネット家を訪問する。果たしてどんな人間模様が展開されるかは、また次回に。今回の個所では、エリザベスの心理の描写を通して、作者であるジェイン・オースティンの結婚観、一時的な情熱よりも、経済的な基盤を考えた縁組が必要であるが、そうだとしても男女の性格的な適合性と、両者がお互いに敬愛できるような関係が望ましいということが語られているのが注目される。リディアとウィッカムは一時的な情熱による縁組であり、シャーロットとコリンズ牧師の場合は経済的な条件だけが考えられている。ジェインとビングリー、そしてエリザベスとダーシーの恋の行方はどうなるのであろうか。
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ジェイン・オースティン『高慢と偏見』(43)

5月10日(日/母の日)曇り、朝、雨が降っていたらしいが、その時分にはまだ寝ていた。

 ダービーシャーのペムバリー(架空の地名)のダーシーの邸宅を訪問し、彼に対する認識を改めただけでなく、思いがけず手厚いもてなしを受けたエリザベスであったが、ブライトン(イングランド南東部の保養地で、当時の軽佻浮薄な流行の中心地の一つであった)に出かけていた5人姉妹の末の妹であるリディアが、ダーシーにとって忌まわしい存在である義勇軍の中尉ウィッカムと駆け落ちしたという知らせを受けて急遽、ハートフォードシャー(ロンドンのすぐ北に位置する)ロングボーン(架空の地名)の自宅に戻ったのであった。あまり頼りにならない、父親のベネット氏に代わり、母親の実弟でそれまでエリザベスと一緒に旅行していたガードナー氏がロンドンに向かい(彼はロンドンのシティに本拠を構える商人である)、ウィッカムとリディアを然るべき条件の下で結婚させることになったので承認してほしいと連絡してくる。ベネット氏はそれを受諾するが、義弟に負担を強いてしまったことを後悔している様子である。

 今回は第3巻第8章(第50章)に入る。前半部分だけの紹介になる。
 少しおさらいをしておくと、ベネット家では男系の限嗣相続制をとっていたので、ベネット氏の財産の主要部分は一番身近な親族の男子であるコリンズ氏に継承されることになっていた。財産の主要部分を特定の個人が相続するというやり方は、財産を分割しないことで、ある家系の経済的な地位を保つことを目的とするものである。ここで注意を喚起しておきたいことは、イングランドには養子という制度はないということである。だからベネット家の5人姉妹は、ベネット夫妻の結婚の際に取決められた贈与分以外には父親の財産を相続できず、そのことがベネット夫人の不満の種であり、彼女が娘たちの誰か1人でもいいから裕福な紳士との結婚してほしいと願う理由でもあったのである。しかし、リディアの場合は賭博の借金で首が回らなくなったウィッカムが、姿をくらますついでに駆け落ちの相手として選ばれたという事情があって、そう喜んでもいられないはずだが、結婚と聞いただけで舞い上がってしまうところがベネット夫人の困ったところである。

 「ベネット氏は、子供達と自分よりも長生きした場合の妻の将来に備えて、収入を全部費(つか)ってしまわずに、毎年一定額を貯蓄に廻せばよかったと、しばらく前からしばしば思わないではなかったが、今ほど痛切にそう思ったことはなかった」(大島訳、519ページ)。ベネット夫人の父親は、メリトンの町の裕福な事務弁護士で、夫人に4000ポンドの遺産を残していたと第7章で語られているから、ベネット夫人についてはそれほど心配する必要はないと思われるが、問題は娘達である。リディアの結婚に際しては、ウィッカムが踏み倒しかけた借金の返済の問題と、新婚夫妻の今後の生活資金の問題が絡んでいるから、ベネット家の財産の問題は深刻なのである。義弟のガードナー氏はかなりの金持ちで、今回の経済的な負担を肩代わりするだけの余裕があるが(もっとも彼にも2人の女児と2人の男児がいる)、年齢的にも社会階層の面でも上位にいるベネット氏にとって彼に負担をかけることは心苦しいことなのである。ところが、ベネット夫人はまったく経済感覚がなくて、実弟の経済的な負担の肩代わりに感謝するどころか、それが当然だと考えている。〔こういう金勘定の問題が物語の展開に大きくかかわっているのもオースティンの小説の特徴の一つである。〕

 もし夫婦の間に男の子が生まれていて、その子が成年に達すれば、限嗣相続を解除できるはずだったから、ベネット氏はそれほど悩んでいなかった。しかし、実際には生まれてきた5人の子どもはすべて女性だったのである。とにかく、リディアの結婚をめぐっての経済的な負担が彼の心配事であったが、ガードナー氏の手紙で、それほど大きな犠牲を払わずに問題を解決できそうだと知って安心するとともに、義弟に対する感謝の気持ちが大きくなった。それにリディアに対する怒りもあって、この問題を早く片付けようと思っていたから、彼はすぐにガードナー氏から書き送られた条件を受諾するという返信を書いた。

 「リディア結婚の朗報はたちまち家中に知れわたり、やがて瞬く間に近隣に弘まった。近隣の人々は一応品よく冷静にこれを伝え、受取った。仮にこれが、ミス・リディア・ベネットはロンドンで身を持ち崩したとか、さもなくばせめて、どこか遠くの人里離れた農家に隔離されたというような話であったら、たしかに人々の会話はもっと弾んだことであろう。だが、結局ミス・リディアは結婚することになったというだけでも、話の種には事欠かなかった。メリトンの意地悪婆さん達は、ミス・リディアも身を誤らなければよいがと、これまで口をそろえてお為ごかしを云っていたが、こんなふうに事情が変って正式な結婚ということになっても、そのお為ごかし根性はほとんど衰えなかった。結婚といってもあんな夫ではどうせ不幸になるに決まっていると見ていたからである」(大島訳、532ページ)
 他人の「不幸」について偽善的に噂することの楽しさがここで語られている。ここは、光文社古典新訳文庫の小尾芙佐さんの訳文の方が原文の雰囲気を伝えていると思うので、小尾訳と、原文とを紹介しておく:
 「吉報はたちまち家中にひろまり、近隣にも同じような勢いでひろまった。近隣のひとびとは仕方なくこれを受け入れた。ミス・リディア・ベネットが娼婦に身を堕としたとか、さもなければせめてどこか遠方の農家に逼塞することになったというならば、噂にもさだめし花が咲いたことだろう。ともあれリディアが結婚するというだけでも、おおいに噂話の種にはなった。身を誤らねばよいがとしきりにお気遣いくださったメリトンの意地悪な老婦人たちの口の勢いは、このように状況が変わっても、ほとんど衰えることはなかった。相手がああいうご亭主では、惨めな行く末が見えているというのである」(小尾訳、下巻、182ページ)。
 The good news quickly spread through the house; and with proportionate speed with neighbourhood. It was borne in the latter with decent philosophy. To be sure it would have been more for the advantage of conversation, had Miss Lydia Bennet come upon the town; or, the happiest alternative, been secluded from the world, in some distant farm house. But there was much to be talked of, in marrying her; and the good-natured wishes for her well-doing, which had proceeded before, from all the spiteful old ladies in Meryton, lost but little of their spirit in this change of circumstances, because such an husband, her misery was considered certain. (Vivien Jones (ed.), Pride and Prejudice, p.293)

 第3巻第5章と第6章で、ウィッカムがメリトン(架空の地名)に多額の借金を残していて、それが明るみに出たために彼の評判がガタ落ちになったという話が出てきたが、義勇軍の士官のことばかり追いかけていたリディアも近隣の女性たちからの評判は悪かったことが、ここで(婉曲な言い方ではあるが)明らかにされる。It was borne in the latter with decent philosophy.という文が訳しにくい。borneはbearの過去分詞であるが、bearを大島さんは「運ぶ」(この意味では通常受動態)、小尾さんは「我慢する」と解釈しているようである。どちらの受け取り方もできる。decebt philosophyはうわべを取り繕った正論くらいの意味だろう。come upon the townはペンギン・クラシックス版の注によると「娼婦に身を堕とす」ということの婉曲な言い方。大島さんは婉曲に訳し、小尾さんはズバリと訳している。an husbandとあるが、たぶん、オースティンはhusbandのhを落として発音していたのであろう。
 オースティンがこの作品の次に書いた『マンスフィールド・パーク』では、ヒロインであるファニーの従姉のマライアが駈落ちをして、その不始末の結果、家族から離れた遠い場所で暮らすという結末になっている。「意地悪婆さん」あるいは「意地悪な老婦人」たちの噂話が書き連ねられているが、その背後には作者であるオースティンがいる。書いたオースティンがそれほど年を取っていたわけではない――というのが興味深いところである。

 しかし、世間の悪い評判など全く耳に入っていないのがベネット夫人と、リディアご本人である〔リディアは次の第3巻第9章=第51章になって姿を現す〕。まずベネット夫人であるが、それまで寝室にこもりきりだったのが、いっぺんに元気を取り戻して階下に降りてくる。そして食卓上座の主婦の席に座る。「娘の駈落を恥じる気持など微塵もなかったから、夫人の得意満面の表情には些かの翳りもなかった」(大島訳、522ページ)。娘のなかのだれでもいい、誰か1人が結婚することが彼女の夢であり、それがかなったので、結婚式のこと、結婚後の2人の住まいのこと、雇い入れる召使のことなど、新婚夫婦の経済事情など一切考えない、ベネット夫人の妄想とも言っていい思い付きがどんどんと繰り広げられる。
 ところがベネット氏はまさに駈落ちというスキャンダルが結婚によって帳消しにされたとは思っていない(その解決のために義弟に負担を強いたことが気になっている)し、ジェインとエリザベスもスキャンダルが自分の将来の運命に及ぼす影響を懸念しているから、母親には同調できない。メアリーについては、何も触れられていないが、第5章での発言から推測してやはり母親には同調していないと思われる(姉2人は、意中の男性がいるから、真剣なのだが、メアリーにはそういう男性がいないということが、相違点である)。キティーについても何も触れられていないが、彼女は動揺しているところではないかと推測できる。だから、ベネット夫人は家庭内でまったく孤立しているのだが、それが見えてこないというところがいかにも彼女らしい。
 ベネット夫妻が、ご本人たちにとっては真剣な、しかし傍から見れば喜劇的なやりとりを続けている中で、エリザベスは物思いにふける。リディアが起こした事件が彼女にどのような影響を及ぼすことになると考えているのか…ということはまた次回に。

ジェイン・オースティン『高慢と偏見』(42)

5月3日(日/憲法記念日/休日)晴れのち曇り

 叔父・叔母であるガードナー夫妻とダービーシャーを旅行し、思いがけずダーシーのペムバリーの邸で彼と再会し、その妹に紹介されるなど手厚いもてなしを受けていたエリザベスであったが、姉のジェインから末の妹であるリディアが、滞在先のブライトンから義勇軍の士官でダーシーにとっては忌まわしい存在であるウィッカムと駆け落ちして行方をくらましたという知らせが届き、家族の住むハートフォードシャーロングボーンの邸に慌てて帰宅したのであった。
 リディアとウィッカムは、当時自由に結婚できたスコットランドに向かった様子もなく、ロンドンに潜伏中のようで、エリザベスの父親のベネット氏が探しに向かったものの手掛かりがなく、もともとロンドンの住民であるガードナー氏が応援に出かけ、結局、ベネット氏はリディアを見つけることができないまま、ロングボーンに戻ってきた。リディアがウィッカムに首ったけな様子であるのに対し、ウィッカムはメリトンとブライトンとでこしらえた相当額の借金から逃げ出すための口実として駆け落ちをしたらしかった。そして末妹のスキャンダルが、姉たちの結婚話の障害となることも明らかであった。

 今回は第3巻第7章=第49章を取り上げる。
 ジェインとエリザベスの姉妹が家の裏手の灌木林を散歩していると、女中頭(the housekeeper)のヒル夫人がやって来るのに気づいた。おそらく母親からの用事を伝えに来たのだろうと思ったが、彼女はジェインに向かって、どうも何か良い知らせがあったようだという。ロンドンのガードナー叔父から至急便(an express)が届いたばかりなのだという。
 2人はすぐさま駆け出した。しかし、家にたどりついて玄関広間(vestibule)を通り抜け、朝食室(breakfast room)を探し、さらにそこから書斎(library)を探しても、父親の姿は見えなかった。執事(butler)によると、小さな雑木林(the little copse)のほうに歩いて行ったという。2人はまた玄関広間を走り抜け、芝生を横切り、父親の後を追った。ベネット氏は落ちついた足取りで、放牧地に隣接する雑木林の方に向かっていた。〔ベネット家はそれほど裕福な地主ではないのだが、それでも邸内にはいくつも部屋があるし、庭園には芝生も、放牧地も、散歩用の灌木林があるかと思うと、薪炭用の木材を伐採するための雑木林もある。〕
 父親に先に追いついたエリザベス(彼女の方が身が軽いのである)が、手紙の内容について質問をした。ベネット氏にはまだ手紙の内容が呑み込めていない様子である。ジェインが追いついてきたので、ベネット氏はエリザベスに手紙をわたし、読み上げるように言った。

 ガードナー氏の手紙によると、ロンドンで2人を無事に発見した。かれらは結婚しておらず、結婚する気持ちもなかった様子であるが、もし彼らの直面している経済状態が解決されれば結婚したいという意思を表明した。そこで、こちらで費用を負担してウィッカムの負債を支払い、また今後の生活を援助すると約束すれば、2人は結婚するだろうというのである。事務的な問題はガードナー氏が事務弁護士(attorney, solicitorと呼ばれるようになるのは1873年の裁判所法以後のことである)のハガーストンと相談して片付けるので、諸事万端、こちらにお任せ願いたい。リディアはガードナー家から嫁がせるのがよいだろうと思うと記されていた。〔ガードナー氏の義兄=姉の弟であるフィリップス氏もメリトンに事務所を構える事務弁護士であるが、どうも頼りにされていないようである。〕
 読み終えて、エリザベスはそんなことがあるはずがないと驚き、ジェインは2人が結婚する見通しとなったことを喜んで、父親にお祝いをいう。そして、返事をすぐに書いて、2人の結婚を承認するようにと説く。これまでの経緯や、今後の見通しを考えればあまり賛成したくない結婚ではあるが、世間体を考えると認めないわけにはいかない。ベネット氏はしぶしぶではあるが、2人の娘に急き立てられて、書斎に向かう(2人の娘もベネット氏の気持ちは理解しているが、世間体の方を重視しているのである)。
 さらにベネット氏には気になることがあった。ウィッカムのような計算高い男が書面中に記されているような条件で結婚に同意したとは思えず、ガードナー氏がもっと大きな犠牲を払ったのではないかという推測と、そのためにこれから彼に莫大な額を支払わなければならないのではないかという懸念にとらわれていた。
 とにかくベネット氏は書斎で手紙を書きはじめ(彼が筆不精であることは、これまでの物語の展開で明らかである)、2人きりになったジェインとエリザベスの姉妹は、この問題に対しての自分たちの意見を述べ合う。ジェインが楽観的であるのに対し、エリザベスは批判的である。そして2人はこのことを母に知らせてるべきだということに気づき、父親の意見を尋ねる。ベネット氏は勝手にするさというので、2人はガードナー氏の手紙をもって母親のところに出かける。

 母親の部屋にはちょうどメアリーとキティーが来ていたので、家族への伝達はこれで済むことになった。ジェインが手紙を読み上げるのを聞いたベネット夫人は、「娘が結婚すると聞いただけですっかり有頂天になり、娘の行く末を案じて心を乱すとか、その不品行を思い出して恐縮するとか、その種のことは一切なかった」(大島訳、516ページ)。ベネット夫人の有頂天ぶりは、周囲の者がハラハラするほどのもので、すぐに結婚衣装やその他の事柄の心配をはじめ、ジェインがこの結婚についてはガードナー叔父の一方ならぬ尽力があったと注意しても、そんなことは当たり前だと言って取り合わなかった。

 ベネット夫人はヒル夫人を呼んで、召使一同にもこの吉報を伝えたが、エリザベスはその喜びの輪から離れて、自分の部屋に引きこもって物思いにふけるのであった。
 「可哀そうに、リディアの置かれた立場はどう贔屓目に見ても情ないとしか云いようがないけれど、でもこれ以上悪くならなかったことを感謝しなければならない。エリザベスは事態をそんなふうに感じた。妹の将来を思うと、まともな幸福も豊かな暮らしも到底期待はできなかったが、つい2時間ほど前に自分達が恐れていたことを思えば、とにかくこのような結果が得られただけでも不幸中の幸いと思わなければならなかった」⦅大島訳、519ージ)。

 リディアのウィッカムとの駆け落ちは、最悪の事態を迎えることなく、2人の結婚という結末を迎えることになった。実はこの結婚をめぐっては、ガードナー氏の手紙には触れられていない第三者の働きが大きかったのだが、それは物語のこれからの展開で明らかになる。結婚したとはいうものの、何をやっても長続きしないウィッカムの性格を考えると、新婚夫婦の将来はあまり明るいものではない。そのことをエリザベスは理解しているが、娘たちを結婚させることが夢だったベネット夫人は「結婚」ということだけで有頂天になっている。そのあたりも喜劇的な筆致をもって描かれ、暗い影が薄められているのもオースティンらしい。一家、特にエリザベスとジェインの運命はこの後どのように展開するか、それはまた次回以降に。

ジェイン・オースティン『高慢と偏見』(41)

4月26日(日)晴れ、午後、雲が多くなる

 ベネット家の5人姉妹の末娘であるリディアが、メリトンに駐在していた義勇軍(当時=19世紀初めのイングランドはナポレオンのフランスと交戦状態にあったので、正規軍のほかに義勇軍を組織していたのである)のブライトン移動のさいに、フォースター大佐夫人の招待で同行していたのが、この舞台の中尉であるウィッカムと駆け落ち、行方不明になるという事件が起きた。ブライトンは、イングランド南東部の保養地で、後に国王ジョージⅣ世となった当時の王太子がこの地を愛し、建築家ジョン・ナッシュの設計による離宮を建てるなど、当時の風俗文化の中心地であった。2人の行方を追って、ベネット氏はフォースター大佐とともにロンドンに向かったが、大佐は軍務があるのでいつまでも捜索を続けるわけにはゆかず、あまり実際的な能力のないベネット氏に2人の消息を突き止めることができるとは、思われなかった。ベネット夫人の実の弟であるガードナー氏は、その妻、それにこの物語の主人公であるベネット家の次女エリザベスとともに旅行中であったが、急遽予定を変更してベネット家の住むハートフォードシャーのロングボーンに駆けつけたのであった。
(以上、第3巻第5章までのあらすじ)

 今回は、第3巻第6章=第48章に入る。
 ベネット家の一同、そしてガードナー夫妻は、ロンドンのベネット氏から何か便りが届くことを期待していたが、その期待は空しかった。もともとベネット氏は筆不精なたちであったし、便りがないのは事態が進展していないことを示すことはわかっていたが、何も朗報がないということだけでも知らせてくれてもよいのにというのが、人々の気持ちであった。便りをまって出発を遅らせていたガードナー氏は、やむを得ずそのまま出発した。〔21世紀の初めまで、英国の郵便物は朝、届いていた。ハートフォードシャーはロンドンから近いので、朝、早くロングボーンを出発すれば、その日のうちにロンドンでかなりの作業に取り組むことができたのである。〕

 ガードナー氏は、ロンドンに到着したら、ベネット氏を説得してロングボーンに戻らせると請け合った。彼の姉であるベネット夫人は、夫がウィッカムに会ったら、娘の結婚をかけて彼と決闘するに違いないと心配していたから、その気持ちを安らげようと意図もあった。
 ガードナー夫人は、子どもたちとともにまだしばらくはロングボーンに留まることにした。姪たち(ジェインとエリザベス)がベネット夫人の付き添いをする負担を軽くしようと考えたのである。また、時間の余裕がある時には、彼女たちのしっかりした話し相手となった。
 ベネット夫人の姉である(メリトンに住む)フィリップス夫人も皆を励まさなければという名目で、しばしばロングボーンを訪問したが、彼女が来るたびに、メリトンに残したウィッカムの悪い噂を口にするので、一家の人々は気が滅入る一方であった。
 ウィッカムがメリトンに滞在していた時は、彼は人気のある将校であったが、いったん彼が去ってしまうと、彼があちこちで借金を重ねていただけでなく、借金をしていた商人の娘たちに言い寄って、なんとか借金を帳消しにしようとしていたことまでが表ざたにされ、噂の相当部分が作り話だとしても、妹のリディアの身の破滅は避けられないと、エリザベスの気持ちは重くなる一方であった。
ジェインの方はリディアとウィッカムが結婚するという望みを捨てていなかったが、その知らせが届かないことが彼女にも不安な気持ちを呼び起こしていた。

 日曜日にロンドンに出発したガードナー氏は、火曜日にすぐに便りをよこした。ロンドンに到着してすぐにベネット氏を探し出し、グレイスチャーチ街(シティーにある実在の地名)の自宅に来てもらったこと、ベネット氏は馬車の乗り換え場所であるエプソムとクラッパムで調査をしたが、なんの手がかりも得られず、今度はロンドンじゅうのホテルを探してみるつもりでいて、ロングボーンには帰るつもりがないことなどを知らせてきた。〔エプソムEpsomもクラッパムClaphamも実在の地名。エプソムはサリーSurrey州の町で、ロンドンの南西に位置している。郊外にDerby及びOaksが行われる競馬場があることで知られる。クラッパムClaphamはテームズ川のすぐ南の一帯で現在はロンドンの市内になっているが、当時は田舎町であった。〕 ベネット氏のやり方で2人が探し出せるとは思わなかったので、ガードナー氏はフォースター大佐にウィッカムの縁戚のものがロンドンにいないかどうか尋ねたし、あるいは(ウィッカムと一時期親しかった)エリザベスがなにか手掛かりになることを知っていないか、いたら知らせてほしいと結んでいた。

 そういわれても、何も知らせるようなことはないとエリザベスはすこしくすぐったいような感想をもった〔実際は、彼女は手掛かりになる情報をもっていないわけではなかったのだが、それが手掛かりになるとは思っていなかった、あるいは思っていても話すわけにはいかなかったということであろう――ここは、読み手によって解釈の分かれるところである。つまり、ミス・ダーシーがウィッカムと駆け落ちをしようとしたという事件の際に、手引きをした女性がいたことをエリザベスは知っていたが、話すわけにはいかないという事情もあったのである。〕

 ロングボーンではガードナー氏からのさらなる便りを不安と期待を抱きながら待っていたが、彼からの第2信が届く前に、思いがけないところから便りがあった。それはケントのコリンズ氏からのものであった。〔ルーカス夫人から自分の娘のシャーロット=コリンズ夫人に向けて今回のスキャンダルを知らせる便りが届いたらしい。〕 コリンズ氏の手紙は、リディアの不行跡を責め、それがベネット夫人の彼女への出来合いの結果であることを指摘し、このスキャンダルが他の4人の姉妹の不幸を招くだろうと予測し、もし、エリザベスと結婚すれば自分もこのスキャンダルにまきこまれていたが、そうならなかったことを幸運だと思い(もちろん、エリザベスの名前は出していないが、暗にそのことを指摘しており、ものすごく嫌味)、「不肖の子とはこの際潔く親子の縁を切られ、自ら犯せし大罪の報いはこれを本人自ら刈取らしむるよう、衷心から御忠言申し上げる」(大島訳、502ページ)と述べるものであった。言っていることの大部分は、いちいちその通りなのだが、余計なお世話だと言いたくもなる内容である。

 フォースター大佐からの返信を受け取ってからやっとガードナー氏は第2信を送ってきたが、2人の居場所についてはなんの手がかりも得られないままであった。フォースター大佐からの手紙では、ウィッカムはブライトンでも賭博の結果、1,000ポンドをくだらない借金を重ねていて、それも彼が身を隠している理由だろうとのことであった。また、なんの手がかりも得られなかったことからベネット氏は意気消沈し、ロングボーンに帰ることを承知したと記されていた。
 「ところがベネット夫人はこの話を聞いても、夫の命をあれほど心配していた割には、娘たちが期待したほど満足の意を示さなかった。/『なんですって! 一人でお帰りですって、可哀そうなリディアを見捨てたまま!』とベネット夫人は叫んだ。『いいえ、お父様は二人が見つかるまでは絶対にロンドンを離れたりはしません。だってお父様がお帰りになったら、一体誰がウィッカムと決闘して、二人を結婚させるんです?』」(大島訳、503ページ) 〔他人には多大の労苦を期待するくせに、ご本人は寝室にこもりきりで何もしないのだから、いい気なものである。そして自分が周囲の人々の足を引っ張っているとは全く気付いていない。自分の言うとおりにふるまわないものだから、うまくいかないと信じ込んでいる。〕

 ガードナー夫人はそろそろロンドンに戻りたくなっていたので、ベネット氏と入れ替わることにした。それで途中の宿場までベネット家の馬車で出かけ、そこでロンドンから戻ってきたベネット氏と馬車を取り替え、ベネット氏はそこから自分の馬車で戻ってきた。
 ガードナー夫人はエリザベスとダーシーの間に何があるのか、また何か起きるのかと気に懸けていたが、なんの気配も感じることができなかった。エリベスは、たしかにダーシーの方に気持ちが向かっていたし、そのためにこの度の不祥事で彼との結婚の可能性がついえたと思われることに消沈していたが、家族全体が不幸な状態にあることが隠れ蓑になって自分の気持ちを問いただされることはなかった。

 一方、ベネット氏は落ちついた様子を見せていたが、今回のことについては一言も話そうとしなかった。そこで娘たち(前後の文脈から考えて、エリザベスだけでなく、メアリーとキティーも加わっていると考えられる。ジェインは母親に付き添っている)の方から思い切って聞いてみたところ、今回のことは自分の身から出た錆だ、自分で自分を責めるだけだとの答えが返ってきた。ベネット氏は持前の辛辣なユーモアを失ってはいなかったが、心に大きな傷を受けたことは隠せなかった。

 家族にとって重大な局面に差し掛かっているのだが、コリンズ氏の言っていることの大部分はもっともなのだが、自分とはいちおう無関係な家庭の私事に首を突っ込むいささか礼を失したお節介な手紙や、夫が決闘で死ぬことを心配(あるいは期待?)するベネット夫人の態度など、滑稽である(しかも、2人のしていることはそれぞれの個性を反映している)。娘たちに答えるベネット氏の態度からもユーモアは失われていない。このあたりにオースティンという作家の面目が現われているように思う。さて、2人の行方は分かるのだろうか。逃避行の結末はどうなるか。それはまた次回に。
 鈴木博之『ロンドン』(ちくま新書)によると、この物語から少し後の時代、1821年2月16日にクリスティという人物とジョン・スコットという人物とがロンドンの北の方のプリムローズ・ヒルで決闘をしてスコットの方が死んだという記録があるそうで、ベネット夫人が騒ぐのは決して根拠のないことではなかったのである。フローベールの『感情教育』は1840年代のフランスの青年たちの群像を描いているが、主人公のフレデリックは決闘をしている(ピストルを発砲する前に事態は収まっている)し、ベル・エポックになってもイタリアでは決闘騒ぎがよくあったと野上素一先生(野上弥生子の子息)のイタリア文学の授業で聴いた記憶がある。
 

ジェイン・オースティン『高慢と偏見』(40)

4月19日(日/穀雨)晴れ:外出自粛がもったいない好天である。しかし、夕方になると、雲が多くなってきた。

 18世紀の末か19世紀の初めのイングランド。南東部(ロンドンの北)ハートフォードシャーの小地主ベネット氏の次女エリザベスは、近くの町で開かれた舞踏会で、中北部ダービーシャーの大地主であるダーシーと出会う。友人から彼女と踊るように勧められたダーシーは、彼女が自分と踊るだけの美貌を備えた女性ではないと拒否し、エリザベスはその言葉を後々まで引きずることになる。男の側の「高慢」と女の側の「偏見」が物語の縦糸となる。
 いったんは彼女の魅力を否定したダーシーであったが、後になって彼女の明るい性格や機知に富んだ振舞いに魅力を感じ、ついに結婚を申し込むに至る。しかし、初対面の時の印象を引きずるエリザベスは、それを拒否する。その後、彼女は叔父夫婦と一緒に中北部までの旅行に出かけ、ダーシーのペムバリー邸を訪問、思いがけず彼と再会してしまう。二人の間の空気が変化し、高慢と偏見が解消したかに思われたその時、エリザベスの姉のジェインから、5人姉妹の末娘であるリディアがメリトンに駐屯していた(ブライトンに移動した)義勇軍の中尉である(ダーシーの執事の息子で、子どものころからお互いによく知りあっていた)ウィッカムと駆け落ちしたという知らせが届く。エリザベスは急遽、叔父夫婦とともにハートフォードシャーへと向かうことになる。(第3巻第4章=第46章までのあらすじ) 今回は第3巻第5章=第47章に入る。)

 エリザベスの父親の邸のあるロングボーンまで帰る道すがら、彼女の叔父であるガードナー氏は、ウィッカムとリディアが真剣に結婚を考えているのではないかという楽観的な見通しを述べ、ガードナー夫人もそれに同意するが、エリザベスには「見栄を張って背伸びすることしか眼中に」(大島訳、479ページ)ないリディアと、外見だけは取り繕っているものの本質は放蕩者のウィッカムが真面目に結婚を考えているとは思えない。一度はウィッカムに魅力を感じていたエリザベスではあったが、ダーシーの秘密の打ち明け話を聞いて彼に対する評価を変えたのである。そしてリディアがブライトンに出発する際に、彼女とウィッカムとの間に恋を予感させるような兆候が感じられなかったからではあったが、彼がどんなに危険な人物であるかをリディアに伝えておかなかったことを今は後悔している。

 3人は先を急いで、夜も馬車の中で過し、翌日の正餐前にロングボーンに到着した。到着したかれらを表に出て真っ先に迎えたのは、ベネット家に預けられていたガードナー夫妻の子どもたちで、両親とエリザべスの急な帰宅に驚きながらも、心からそれを喜んでいた。そして母親の部屋から、ジェインが階段を駆け下りて彼女を迎えた。すでに父親はロンドンに発ち、1度だけ便りをよこしてロンドンの連絡先を教えてきたものの、後はめぼしい知らせがない限り、こちらから便りはしないと伝えてきたという(ベネット氏は筆不精な人物=イングランド人としては例外的な存在として描かれている)。

 エリザベスとガードナー夫妻とは、ジェインとともに母親=ベネット夫人の部屋に赴いたが、彼女の様子は予想した通りで、ウィッカムや周囲の人々の行動を責めながら、自分が主張したとおりに、一家全員でブライトンに赴いていれば、リディアはこんなことをしなかっただろうという自分に都合のいい意見を述べ、4人、特にベネット夫人の実の弟であるガードナー氏はそれをなだめて、自分もロンドンに戻ってベネット氏に協力するから大丈夫だと、彼女をなだめたのである。(ロンドンの多忙な商人であるガードナー氏にとっては、そうとうな犠牲を払うことを余儀なくされる申し出であったのだが、)ベネット夫人はそれを当然のことと受け取り、自分の一番お気に入りの娘であるリディアとウィッカムを何とか結婚させてほしいとガードナー氏に頼むのである。

 正餐の時間となり、エリザベスは他の2人の妹、メアリーとキャサリン(キティー)にも会うことができた。キティーは今回の件で(リディアの秘密を知りながら黙っていたことで)、少しイライラした表情ではあったが、メアリーは例によってもったいぶって今回の件についての(自己満足的な)教訓を述べて、それぞれのやり方で落ち着いた様子であった。
 食事の後、エリザベスは今回の件についてジェインと2人きりでゆっくりと話し合うことになった。ウィッカムの上官であるフォースター大佐(その夫人の招待で、リディアはブライトンに赴いた)は、2人が行方不明になってすぐにロングボーンへと向かおうとしたのだが、ウィッカムの友人であるデニーを問いただしたところでは、ウィッカムの方に結婚する意志がなさそうだという印象をうけたので、慌ててロングボーンにやってきたのだという。リディアがブライトンからキティーに出した手紙には、彼女がウィッカムと結婚することになるかもしれないと仄めかす内容が記されていた(それを黙っていたために、彼女は父親から叱られたのである)。一家のものは2人が結婚するだろうと(それはそれとして先行き心配なことではあるが)、ウィッカムに結婚する意志がなさそうだという知らせは大変な衝撃であった(19世紀の初め=日本では江戸時代の話である)。

 ジェインの話ではフォースター大佐は、ウィッカムが軽率で金遣いの荒い男だとは思っていたが、このような事件を起こすとは思っていなかったという。大佐は、その夫人に宛てたリディアの駆け落ち(本人は結婚の予備段階だと信じている)を予告する能天気な(thoughtlessという形容詞が2度繰り返されている。大島訳ではこのようになっているが、小尾訳では「愚かな、愚かな」と原文に忠実に訳している)手紙をわざわざロングボーンまで持参してくれた。
 この知らせを受けてベネット氏はそれまでに見せたことのない打ちひしがれた様子を見せ、ベネット夫人は半狂乱になった。ジェインとエリザベスはこの事件が召使たち、また近隣に知れわたって一家のスキャンダルにならないかということを心配する(19世紀初めのイングランドが舞台になっていることを念頭においてほしい)。
 それから、エリザベスは父親がどのようにしてロンドンで2人を探すつもりなのかを尋ねる。父親はいろいろと手段を講じているようだが、2人を探し出せるとは思えない。

 ウィッカムと駆け落ちしたリディアの未来も心配であるが、このスキャンダルの波及効果でジェインとエリザベスの未来にも暗い影が差すことは目に見えている。エリザベスのペムバリーでのダーシーとの再会で、彼女とダーシーとの将来はさておいても、ジェインとビングリーの結婚の実現性に希望が持てるようになったのに、たいへんな事態である。こと、ここに及んでも自分勝手な不満を述べているベネット夫人のthoughtlessな姿がこの悲劇的に見える状況にむしろ笑いを混ぜる結果になっているのは、さすがにオースティンである。実際的な問題解決能力のあまりないベネット氏を助けるべく、若く、実際的な手腕にも富んだガードナー氏がロンドンに戻ることになるが、その首尾はどのようなものとなるか、それはまた次回に。
 
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